人間蒸発

『人間蒸発』の概要

『人間蒸発』（にんげんじょうはつ）は、1967年に公開された今村昌平監督によるモキュメンタリー映画である。この作品は、アートシアターギルド（ATG）による資金提供を受けた初の映画であり、映画業界において高い評価を得ている。具体的には、キネマ旬報第2位、映画芸術第1位、日本映画評論第1位など、数々の名誉ある賞を受賞している。

物語の概要

本作は、実際に失踪した男性の行方を追う婚約者の物語であり、彼女と共に日本全国を巡りながら取材を通じて映画を完成させる過程を描いている。物語は、警視庁の家出人リストから選ばれた新潟出身のセールスマン・大島裁の失踪を追うところから始まる。彼の婚約者である早川佳江を俳優の露口茂がサポートし、二人で大島の関係先へ訪問し捜索を行う。

捜索を進める中で、次第に大島の意外な一面が明らかになる。また、早川の姉であるサヨが大島と肉体的な関係を持っていたのではないかという疑念も浮かび上がる。しかし、早川は次第に役柄を超えて露口に好意を抱くようになり、捜索そのものに対する興味は薄れていく。一般人であった早川は、徐々に女優のような演技をする存在へと変化していく。

露口は、本来の役柄として参加するのではなく、今村から大島を演じるように指示され、それに困惑して奮闘する姿が描かれている。ドキュメンタリーの形をとっているが、フィクションとしての側面も強く持っており、クライマックスでは、関係者を前に「これはフィクションなんだから」と強調する今村の姿も印象的である。

主要な登場人物

• - 大島裁（写真のみ）: 失踪者で新潟県直江津出身の32歳のプラスチック問屋セールスマン。
• - 早川佳江: 大島の婚約者で、病院のまかない婦を辞めて本作に出演する。
• - 露口茂: 早川佳江の付添人として登場。
• - 早川サヨ: 佳江の姉で、中小企業社長の運転手兼妾。
• - 霊媒師や、大島の周囲の人々、親族などが登場する。

制作背景

今村は元々劇映画の制作を前提としていたが、そのモデルとなる事例を徹底的に調査するうちに、ドキュメンタリーとしてその調査過程を記録する方が良いと考えるようになった。そのため、高度成長期の背景もあり、失踪者の物語は当時の社会情勢において関心を集めていた。大島裁を選んだ理由は、「一番平凡である」との判断からであり、彼の失踪を通じて農村から都会に出て行った若者たちの厳しい現実も描かれた。

早川佳江との出演交渉では、彼女の性格に対する不安があったものの、その内面探求を進めることにした。映画の制作中には、佳江の女優としての成長に対する期待とともに、今村はプレッシャーを感じていた。

完成とその後

映画の試写後、早川姉妹がプライバシーの侵害を理由に上映中止を求めるなどの波紋を呼んだが、それは映画宣伝の一環でもあった。完成後、早川佳江は編み物教室の教師として新たな生活を始め、2002年には今村との再会を果たし、「図太く生きろ」という言葉が彼女にとって支えになったと語った。『人間蒸発』は、今村の手法と社会事情を反映した重要な作品として位置づけられる。

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