仁智栄坊

仁智栄坊（にち えいぼう）について

仁智栄坊は、1910年7月8日に高知県高知市に生まれ、本名を北尾一水と言います。彼は日本の著名な俳人として知られており、独自の視点や表現方法で俳句の世界に貢献しましたが、特に新興俳句弾圧事件の犠牲者とされる点が強調されます。彼の一生は、俳人としての活動のみならず、社会と政治の厳しい現実と向き合うものでした。

略歴

仁智は1931年に大阪外国語学校（現・大阪外国語大学）を卒業後、大阪逓信局の無線課で職務に就きました。そこで、彼はロシア語の知識を存分に活かし、ソビエト連邦からの無線信号を傍受する任務に従事しました。このような経験が、後の彼の俳句作品にも影響を与えたのではないかと考えられます。

その後、岸風三楼の誘いで「京大俳句」に参加し、1940年には京大俳句事件と称される俳句弾圧事件に巻き込まれました。この事件は、当時の社会情勢を反映した重要な出来事でしたが、彼の多くの友人たちとともに、非常に困難な状況に直面しました。1941年7月には、妻とともに満洲へ渡り、新京の満洲電信電話放送部に就職しました。そこで出会った同僚の高屋窓秋との交流は、後の彼の作品に何らかの影響を与えた可能性があります。

戦後の苦難

彼の人生は、敗戦後にさらに厳しい道を歩むことになります。ソ連軍に加わる反ソ活動の容疑で逮捕され、シベリアの収容所に送られました。1949年には難を逃れて帰国を果たしたものの、アメリカのCIAからソ連のスパイとして度々取り調べを受ける事態に直面しました。このような背景から、彼はロシア語通訳としての職を得る機会を失い、石川島播磨造船所を辞めざるを得なくなりました。

戦後の彼は回顧録やインタビューを受けつつも、俳人としての目立った活動は少なく、82歳でその生涯を閉じました。彼は一度も政治活動を行ったことがなく、共産党員でもないという事実が、彼の経験した濡れ衣の苦悩をより一層感じさせます。彼が著した句集はなく、代表作としては「戦闘機ばらのある野に逆立ちぬ」などがあります。

俳号の由来と著作

彼自身の俳号「仁智栄坊」はロシア語の「ニーチェボー」（気にするな・勝手にしやがれ）に由来しています。この言葉には、彼の個人的な信念や生き様が反映されていると言えるでしょう。著作としては、北尾一水名義で『白系露人作家短編集』（五星書林、1943年6月）があります。

参考資料

彼の俳句や生涯について知るための参考資料には、『現代俳句大事典』（三省堂）や『現代俳句大辞典』（東京堂出版）、さらに「京大俳句」（復刻版、1991年、臨川書店）などがあります。仁智栄坊の人生と作品は、戦後日本における文化と社会の複雑な相関関係を考察する際に、非常に興味深いケーススタディを提供します。

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