新興俳句弾圧事件

新興俳句弾圧事件（昭和俳句弾圧事件）

新興俳句弾圧事件、または昭和俳句弾圧事件は、1940年から1943年にかけて、治安維持法に基づいて行われた、新興俳句の俳句誌および俳人に対する一連の言論弾圧事件の総称です。この事件により、多くの俳人が逮捕され、多数の俳句誌が廃刊に追い込まれました。特に「京大俳句」への弾圧事件は「京大俳句事件」とも呼ばれ、事件の端緒となりました。

事件の経緯

1933年に創刊された「京大俳句」は、「作風と批判の自由」を標榜していました。しかし、時局は戦意高揚の俳句作成や、国が推奨する季語の使用が求められる時代へと移行。そのような状況下で、「京大俳句」は厭戦や反戦をテーマにした俳句を掲載し続けたため、特別高等警察（特高）の監視対象となりました。結果として、一連の事件で少なくとも44名が検挙され、そのうち13名が懲役刑を受けるという厳しい処分が下されました。

弾圧の対象となった俳句誌・俳人

以下は、弾圧の対象となった主な俳句誌と俳人です。

京大俳句
第1次 (1940年2月14日): 井上隆證（井上白文地）、中村修次郎（中村三山）、中村春雄（新木瑞夫）、辻祐三（曽春）、平畑富次郎（平畑静塔）、宮崎彦吉（宮崎戎人）、福永和夫（波止影夫）、北尾一水（仁智栄坊）
第2次 (1940年5月3日): 石橋辰之助、和田平四郎（和田辺水楼）、杉村猛（聖林子）、三谷昭、渡辺威徳（渡辺白泉）、堀内薫
第3次 (1940年8月31日): 斎藤敬直（西東三鬼）
広場 (1941年2月5日):
藤田勤吉（初巳）、中台満男（中台春嶺）、林三郎、細谷源太郎（細谷源二）、小西金雄（兼尾）
土上 (1941年2月5日):
嶋田賢平（青峰）、秋元不二雄（東京三・戦後は秋元不死男）、古家鴻三（榧夫）
日本俳句 (1941年2月5日):
平沢栄一郎（英一郎）
俳句生活 (1941年2月5日、7日、21日):
橋本淳一（夢道）、栗林農夫（栗林一石路）、横山吉太郎（横山林二）、野田静吉（神代藤平）
山脈 (1941年11月20日):
山崎清勝（青鐘）、山崎義枝、西村正男、前田正、鶴永謙二、勝木茂夫、紀藤昇、福村信雄、宇山幹夫、和田研二
きりしま (1943年6月3日):
面高秀（散生）、大坪実夫（白夢）、瀬戸口武則
宇治山田鶏頭陣 (1943年6月14日):
野呂新吾（六三子）
蠍座 (1943年12月6日):
大河隆一（加才信夫）、高橋凱晟（高橋紫衣風）


これらの俳句誌や俳人は、治安維持法の名の下に、思想統制の犠牲となりました。新興俳句弾圧事件は、戦時下における言論の自由の抑圧を示す象徴的な出来事として、歴史に刻まれています。

参考文献

『現代俳句大事典』（三省堂）
田島和生『新興俳人の群像―「京大俳句」の光と影』（思文閣出版、2005年）
栗林浩『京大俳句会と東大俳句会』（角川書店、2011年）
川名大『昭和俳句の検証』（笠間書院、2015年）
マブソン青眼『日本レジスタンス俳句撰』(Pippa, Paris, 2016年)
日野百草「戦前の自由律における社会性俳句」 殿岡駿星編著『橋本夢道の獄中句・獄中日記』勝どき書房 2017年
細谷源二『どろんこ一代』「俳句事件」（春秋社 1967年）、『俳句事件』（フランス語訳、日本語原文覆刻、解説、注釈）Genji Hosoya, Criminel pour quelques haïkus... - Mémoires de prison d’un haïjin pacifiste (1941-1945), édition bilingue français/japonais 二カ国語版(Pippa Éditions, 2022)

関連項目

戦前・戦中期日本の言論弾圧の年表
奥野誠亮
レジスタンス運動
京大三高俳句会
治安維持法
小野蕪子
『群蝶の空』

外部リンク

* 夢幻と湧源

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