仁鶴の楽書き帖

「仁鶴の楽書き帖」（にかくのらくがきちょう）は、朝日放送ラジオで2006年10月から2021年3月まで、毎週土曜日に放送された事前収録形式のトーク番組でした。

この番組は、上方落語界を代表する一人である三代目・笑福亭仁鶴の冠番組としてスタート。仁鶴が、落語家としての長いキャリアで培った知見や、自身の豊かな人生経験を基に、懐かしい演芸の話や音楽、映画、さらには世相に関する話題などを、親しみやすい語り口で披露する内容でした。番組の冒頭では、放送日の歴史上の出来事を振り返り、続いて聞き手である朝日放送テレビの加藤明子アナウンサーが、その日の誕生花とそれに込められた花言葉を紹介するのが定番の構成でした。番組後半は特定のコーナーを設けず、テーマに沿った歌謡曲や邦楽を紹介したり、故人となった落語家や漫才師たちの貴重な音源を放送したりするなど、多彩な企画が展開されました。

かつて朝日放送がラジオ・テレビ兼営局だった1970年代には、深夜番組「ABCヤングリクエスト」内で、仁鶴がリスナーからの投稿に答える「仁鶴・頭のマッサージ」というコーナーがあり、若い世代から絶大な人気を集めていました。「仁鶴の楽書き帖」は、この時代から続く仁鶴とラジオ、そしてリスナーとの関わりの中で生まれ、彼の円熟味を増した語りが楽しめる番組として定着しました。

仁鶴は晩年までマイクに向かい続けましたが、2017年秋頃から体調を崩し、番組出演が難しくなりました。しかし、番組は仁鶴の冠番組として続けられ、彼の回復を願いながら、筆頭弟子の笑福亭仁智や林家菊丸といった他の落語家が代役パーソナリティを務めました。聞き手の加藤アナウンサーも、2013年5月から2015年4月にかけて産休・育休を取得した際には後輩の桂紗綾アナウンサーが代役を務めましたが、復帰後は最終回まで番組を支えました。桂アナは番組担当を離れた後も、朝日放送ラジオで多くの演芸番組を担当し、アナウンサー業務と並行してアマチュア落語家としても活動しています。

番組の制作は、2018年4月の朝日放送グループの会社分割により、旧朝日放送からラジオ放送事業を承継した朝日放送ラジオに移管されました。加藤アナウンサーはテレビ放送事業を担う朝日放送テレビへ異動しましたが、番組には引き続き「朝日放送（ABC）アナウンサー」として出演しました。

放送時間は開始当初30分でしたが、何度かの時間変更を経て、最終盤の2021年1月から3月にかけては15分に短縮されました。そして、2021年3月27日の放送をもって、レギュラー放送はその役割を終え、およそ14年半にわたる歴史に区切りをつけました。

レギュラー放送終了時、番組は仁鶴の静養期間と考えられており、彼の復帰を待って再開される可能性も示唆されていましたが、2021年8月17日に仁鶴が84歳で惜しまれつつ永眠されました。これを受け、朝日放送ラジオは「笑福亭仁鶴さん追善特別番組」を企画。これが「笑福亭仁鶴 最後の楽書き帖」と題され、2021年12月29日（水曜日）に特別番組として放送され、番組全体の最後を飾ることになりました。

この追悼特番では、上方落語に深い知識を持つ朝日放送テレビの伊藤史隆アナウンサーが加藤アナと共に進行を務め、スタジオには笑福亭仁智師匠が出演しました。番組内では、仁鶴夫妻が共演した貴重な回や、仁鶴が高座で演じた「初天神」「池田の猪買い」といった代表作の音源、さらに「仁鶴・頭のマッサージ」など旧朝日放送時代のラジオ音源が紹介されました。また、仁鶴と関わりの深い漫才師の中田カウス・上沼恵美子へのインタビュー、桑原征平・林家菊丸からのコメントも流れ、事前に募集したリスナーからの追悼メッセージも多数紹介されました。この特別番組は大きな反響を呼び、2022年4月には第59回ギャラクシー賞の奨励賞を受賞。これを記念して、同年5月には一部編集された短縮版が再放送されました。

「仁鶴の楽書き帖」は、レギュラー放送と追善特別番組を合わせ、およそ15年3ヶ月にわたり放送され、落語家・笑福亭仁鶴の人となりと芸の魅力、そして温かい語りで、多くのリスナーに愛され続けた番組でした。

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