今宮町

今宮町（いまみやちょう）

今宮町は、かつて大阪府西成郡に存在した町で、現在の大阪市西成区の北東部にあたります。ここでは、今宮町の前身である今宮村についても触れ、その歴史的変遷を詳細に解説します。今宮村時代には、現在の浪速区南東部も含まれていた時期がありました。

歴史

この地域は、古代には津江の庄、その後、今宮庄、そして今村と呼ばれていました。津江の庄時代には、宮中に鮮魚を献上する漁村として栄え、徳川時代には献上が正月に限られるものの、麦や綿の栽培地として農村へと変化しました。

今宮の地名の由来には諸説あります。一つは、西宮戎神社から分霊を受け今宮戎神社を創建した際、西宮戎に対する新しい神社という意味で「今宮」と名付けられたとする説です。もう一つは、元々今村と呼ばれていた地域に西宮戎の分社ができたため、「今村の宮」が略されて「今宮」となったとする説です。しかし、いずれの説も伝承に過ぎず、地名の正確な由来は確定していません。文献上で確認できる最古の今宮の地名は、戦国時代の1522年の文書に記されています。

中世頃まで、この地は海辺に面していたと考えられています。現在では内陸部となっていますが、海道、甲岸、入船、釜ヶ崎、曳舟、今船など、水や海を連想させる旧地名が残っており、かつて漁村であったことを示唆しています。

江戸時代から明治時代にかけては、西成郡今宮村を形成しました。大坂市街に米や野菜を供給する近郊農村「畑場八ヶ村」の一つとして知られ、特に蕪や瓢箪の産地として有名でした。集落は現在の恵美須西・戎本町周辺に形成され、今宮新家と呼ばれる枝郷が現在の天下茶屋北にありました。また、日本橋筋（現在のでんでんタウン）の裏側には貧民街も存在していました。

沿革

1889年（明治22年）4月1日、西成郡今宮村が単独で町村制を施行しました。当時の今宮村の境界は、現在の地形からは正確には特定が難しいものの、おおむね現在の浪速区役所付近を北端、西成区役所付近を南端とし、東は紀州街道付近、西は現在の国道26号付近に位置する南北に細長い村でした。

1897年（明治30年）4月1日、大阪市第一次市域拡張により、大阪鉄道（現在の関西本線・大阪環状線）以北が大阪市南区に編入されました。同時に、西隣の木津村から大阪鉄道以北の残余が今宮村に編入され、元今宮、元木津の2大字が編成されました。南区に編入された旧今宮村域は、1900年（明治33年）に東関谷町、西関谷町、舩出町など13町となり、1925年（大正14年）に新設された浪速区に転属しました。現在の日本橋の南西部、日本橋西、敷津東の東部、戎本町、恵美須西、恵美須東に概ね該当します。

第一次編入直後の今宮村の人口は約1000人に減少し、行政運営に支障をきたしたため、西隣の津守村と行政組合を設置して運営を行いました。1903年（明治36年）には行政組合を解消し、今宮村単独で村政を敷きました。1913年（大正2年）には大字から「元」の字が廃され、今宮、木津となりました。1917年（大正6年）9月1日には町制を施行し、今宮町となりました。

1922年（大正11年）の大字改編により、今宮、木津それぞれに細分化された計37の大字が設定されました。1925年（大正14年）4月1日、大阪市第二次市域拡張により、今宮町は新設された西成区に編入され、今宮町は廃止されました。

西成区に編入された旧今宮町域は、現在の太子、萩之茶屋、天下茶屋北、天下茶屋（1丁目の南東部と2・3丁目の東部を除く）、花園北、花園南、岸里1丁目、潮路1丁目、北開、中開、南開、出城、長橋、鶴見橋、旭、梅南、松、橘に概ね該当しますが、旧村の範囲と現在の住所表示は必ずしも一致していません。第二次編入直前の今宮町の人口は7万人以上に増加していました。

交通

1885年に阪堺鉄道（後の南海鉄道、現在の南海本線）が開通し、地域を縦断するようになりました。阪堺鉄道の開通と同時に、天下茶屋駅が設置され、1907年には萩ノ茶屋駅が設置されました。地域の東部には紀州街道が通り、明治時代には一時国道に指定されていました。また、西部には勝間街道が通っており、木津から今宮駅付近を経て南へ進み、勝間、粉浜を経由して紀州街道に合流するルートでした。勝間街道は紀州街道のバイパスとしての役割を担っていました。

区画整理

1910年（明治43年）4月、今宮村第一耕地整理組合が発足し、年末には第二耕地整理組合も発足。南海本線以西の土地区画整理事業が開始されました。第一組合の事業範囲には、日露戦争当時にロシア人俘虜収容所などがあり、返還された約6万坪の土地は、耕地に戻すことが困難だったため、整理と住宅地開発が行われました。第一組合の事業範囲は、梅通、梅南通など植物名で統一されています。第二組合の事業範囲は第一組合の北側に位置し、北開、中開などの地名が設定されました。鶴見橋通は、大日本紡績木津川工場への通勤路として発展し、鶴見橋商店街が形成されました。耕地整理は二回に分けて行われ、1920年（大正10年）3月に完了しました。

教育

明治初期の学制発布により、第六大区一小区第一番今宮小学校が設置されましたが、1897年に村北部が大阪市に編入された際に大阪市に移管され、大阪市恵美尋常高等小学校（現在の大阪市立恵美小学校）となりました。今宮村に残った地域には学校がなくなったため、一時的に恵美尋常高等小学校に委託しました。1898年には、西成郡今宮尋常小学校（後の大阪市立弘治小学校）が新設されました。その後、児童数増加に伴い、今宮第二（現・長橋）、今宮第三（後の萩之茶屋）、今宮第四（後の今宮）、今宮第五（現・橘）の各小学校が相次いで開校しました。

中等教育については、大阪府立職工学校今宮分校が1914年に設置され、1916年に大阪府立今宮職工学校として独立しました。1921年7月には、今宮町役場に「今宮町文庫」が併設され、翌1922年8月には今宮町立図書館として拡張されました。この図書館は大阪市編入の際に大阪市に引き継がれましたが、1945年3月の大阪大空襲で焼失し、廃館となりました。現在の大阪市立西成図書館とは歴史的な連続性はありません。

参考文献

『西成区史』川端直正・編 西成区市域編入40周年記念事業委員会、1968年
『釜ヶ崎変遷史（戦前編）』 天平元一 夏の書房刊、1978年
『今宮町志』 西成郡今宮町残務所・編 1926年9月

関連項目

大阪府の廃止市町村一覧
木津村 (大阪府)
天下茶屋
釜ヶ崎
今宮戎神社

もう一度検索