付け下げ

付け下げ（つけさげ）は、日本の女性が着用する和服の一種で、「付下げ」とも表記されます。一般的な格としては、訪問着に次ぐ位置づけとされる染めの着物です。

付け下げの特徴

付け下げは、訪問着と同様にすべての模様が肩山を頂点として上向きになるように配されます。また、裾に向かうにつれて模様が大きくなったり密度が高くなったりする傾向がある点も共通しています。

しかし、訪問着との最も大きな違いは「絵羽模様ではない」という点です。訪問着は、生地を広げたときに柄が縫い目で繋がって一枚の絵のようになるように計算されていますが、付け下げは反物の状態で柄付けされるため、生地を裁ち合わせた際に柄が横方向に繋がることはありません。

柄付けが反物の状態で行われるため、仕立て上がりではなく、反物のまま店頭で販売されるのが一般的です。また、柄の配置方向が一定であることから、裏地である八掛に表地と同じ共生地が使われることは稀です。

中には、訪問着に近い華やかな柄付けがされたものもあり、これらは「付け下げ訪問着」と呼ばれることもあります。

付け下げの歴史

付け下げは、大正時代から昭和初期にかけて誕生した比較的新しい着物です。当時、女性たちの社会進出が進み、お茶会や展覧会など、訪問着ほどかしこまらず、かといって小紋よりは改まった装いが必要な外出機会が増加しました。

こうした時代のニーズに応える形で、訪問着より手軽でありながら品位を保つ着物として付け下げが考案されました。

小紋の染め技法を発展させる中で、反物に柄を配置する際に、仕立てた時に模様の向きが全て上を向くようにする工夫が生まれました。この柄付けの技法が「付け下げ」と呼ばれるようになり、それがそのまま着物の名称として定着したと言われています。

特に太平洋戦争中には、華やかな絵羽模様の訪問着が贅沢品として製造が制限されたため、付け下げがその代わりとして広く着られるようになり、定着しました。一時期は花柳界で仕事着として用いられることもありましたが、戦後、特に昭和30年代になると、控えめながらも品のある装いとして、幅広い年齢層の女性に略礼装として愛用されるようになりました。

初期の付け下げは訪問着に比べて華やかさでは控えめでしたが、次第に凝った模様のものが作られるようになり、「付け下げ訪問着」と呼ばれるような豪華なものも生まれています。

付け下げの用途

付け下げは、訪問着に比べると着用シーンが幅広く、多様なおしゃれ着として活躍します。

• - よそゆき着として: あっさりした柄の付け下げに、織りや染めの名古屋帯を合わせることで、友人との食事会や観劇、美術館巡りなど、ちょっとしたお出かけにふさわしいよそゆき着となります。
• - 略礼装として: 訪問着に近い華やかな柄付けがされた付け下げ（付け下げ訪問着）には、袋帯や格の高い織りの名古屋帯を合わせることで、結婚式の二次会、パーティー、入学式や卒業式への出席など、やや改まった準礼装が必要な場面にも対応できます。ただし、あくまで略礼装やおしゃれ着の範疇であり、正式な訪問着よりは格が下がると理解しておく必要があります。
• - お茶席に: 派手すぎず落ち着いた雰囲気を持つ付け下げは、お茶席にも大変適しています。格式の高い本格的な茶会を除けば、多くの一般的な茶会で失礼なく着用することができます。

付け下げは、その柄付けや帯合わせによって、おしゃれ着から略礼装まで幅広いシーンに対応できる、大変便利な着物と言えるでしょう。

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