代将 (アメリカ海軍)

アメリカ海軍における代将：階級から称号への変遷

アメリカ海軍における「代将」(Commodore)は、かつて大佐の上に位置する階級として存在しましたが、その歴史は複雑で、現在では階級ではなく単なる称号となっています。本稿では、代将の地位がどのように変遷してきたのかを、歴史的背景を踏まえながら詳細に解説します。

初期の代将：艦長の特設職位

アメリカ海軍創設当初、議会は提督階級を置くことを拒否していたため、代将は事実上の最高位に位置づけられていました。しかし、イギリス海軍と同様に、代将は恒久的な階級ではなく、複数の艦船からなる戦隊を指揮する、あるいは特別な任務を帯びた艦長に一時的に与えられる職位でした。階級は大佐のまま、任命期間中のみ代将としての待遇と儀礼が適用されるという仕組みでした。これはフランスの「シェフ・デスカードル」と同様の制度でした。

当時、代将の任命は必ずしも艦長に限られておらず、この点について批判的な意見もありました。アイザック・ハル艦長は、昇進の行き詰まりに対する不満を表明し、代将の称号が乱用されることを懸念していました。このため、海軍省は代将の任命をより厳格化し、艦長に限定するようになりました。しかし、その称号を生涯保持できるかどうかについては、その後も議論が続けられました。1857年には「海将」(Flag Officer)という階級が創設されましたが、これは代将とほぼ同様の扱いで、任務完了後は艦長に戻っていました。

南北戦争と代将の恒久化

南北戦争の勃発により、深刻な士官不足が問題となりました。この状況を受け、海軍の伝統は一旦脇に置かれ、代将はついに恒久的な階級として認められることになります。1862年7月16日には18人が代将に任命され、1863年には、第1線部隊の指揮官に限らず、補給部門などの長も代将に任命されるようになりました。

将官への格上げとその後

1899年の「海軍兵員法」により、代将はすべて少将に昇格しました。その理由は、代将が将官として認められていなかったため、国際的な場で十分な敬意を得られず、個人の名誉と国家の威信を損なう可能性があったためです。しかし、すべての代将に少将の給与を支払うのは財政的に負担が大きいため、議会は少将を給与の低い「ロワー・ハーフ」と高い「アッパー・ハーフ」に分け、ロワー・ハーフには陸軍准将と同等の給与を支払うことにしました。この決定は陸軍准将の反発を招き、陸海軍間の論争に発展しました。最終的に、1916年に陸軍は准将を「最上級の佐官」から「最下級の将官」に格上げし、海軍の少将（ロワー・ハーフ）と同等と位置付けることで決着しました。

第二次世界大戦と代将の復活

第二次世界大戦中は、海軍の急激な拡大により、多数の指揮官が必要とされました。一方で、戦後の将官過剰を懸念する声もありました。この状況下で、アーネスト・キング提督は、経験豊富な大佐に高い指揮権を与えるため、過去の代将階級を復活させることを提案しました。フランクリン・ルーズベルト大統領の承認を得て、1943年4月に代将階級が復活しましたが、これは戦後まもなく廃止されました。

代将の称号化

1982年には「コモドー・アドミラル」という名称で星1つの将官階級が復活しましたが、抗議を受けて翌年には「コモドー」すなわち代将に戻されました。1985年以降、代将は駆逐艦戦隊や航空団などを指揮する先任大佐の称号として用いられるようになり、現在に至っています。現代の代将は階級ではなく、大佐の職名に付随する称号に過ぎません。

結論

アメリカ海軍における代将は、その歴史の中で階級と称号の扱いを繰り返してきました。初期の特設職位から恒久的な階級、そして現代の称号へと変遷したその過程には、海軍組織の変革、政治情勢、国際的な外交情勢など、様々な要因が複雑に絡み合っています。現代においても、代将は海軍における重要な役割を担っており、その歴史を理解することは、アメリカ海軍の歴史を理解する上で不可欠です。

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