伊号第十潜水艦

伊号第十潜水艦（いごうだいじゅうせんすいかん）は、日本海軍が建造した潜水艦であり、伊九型[[潜水艦]]（巡潜甲型）の2番艦として位置づけられます。1937年の第三次海軍補充計画に基づいて建造が開始され、1941年に竣工しました。太平洋戦争（大東亜戦争）においては、通商破壊作戦を中心に活動し、数々の戦果を挙げましたが、1944年にサイパン島近海で消息不明となり、その生涯を終えました。

艦歴

1938年 6月7日、川崎重工業神戸造船所にて起工。1939年 9月29日に進水し、1941年 10月31日に竣工しました。竣工後は佐世保鎮守府に籍を置き、第六艦隊第二潜水戦隊に編入されました。

太平洋戦争開戦時には、第六艦隊第二潜水戦隊に所属し、先遣部隊として1941年11月16日に横須賀を出港。クェゼリンを経由してフィジー諸島周辺海域に進出しました。当初の任務は、サモア、フィジー方面における敵艦隊の監視でしたが、同海域に有力な敵が存在しなかったため、ハワイ・アメリカ本土間の通商破壊作戦に移行しました。

1941年12月10日には、ハワイ南東沖でパナマ貨物船「ドネレイル」を撃沈。その後、アメリカ西海岸沿岸での通商破壊作戦に参加し、1942年1月11日にクェゼリンに帰還しました。1月12日にクェゼリンを出港し、1月21日に横須賀に帰投。3月10日には、第1潜水隊、第3潜水隊、第14潜水隊と共に第8潜水戦隊を編成しました。

1942年4月16日、伊10は第1潜水隊、伊30と甲先遣隊を編成し、呉を出港。途中、陸軍輸送船から誤射を受けるも被害はありませんでした。4月18日、ドーリットル空襲を受け、小笠原諸島北方沖にいる米機動部隊の迎撃に向かいましたが、空振りに終わりました。4月25日、ペナンに到着。5月には、特設巡洋艦「報国丸」「愛国丸」と共にペナンを出港し、マダガスカル島周辺海域で偵察活動を実施。同地で、イギリス軍の戦艦「ラミリーズ」など多数の艦船の存在を確認し、その後のディエゴ・スアレス港攻撃に貢献しました。

1942年6月以降、モザンビーク海峡を中心に通商破壊作戦を展開し、多数の連合国商船を撃沈しました。主な戦果として、パナマ貨物船「アトランティック・ガルフ」、米貨物船「マーヴィン・H・ベイカー」、イギリス貨物船「キング・ルド」、「クイーン・ヴィクトリア」、米貨物船「エクスプレス」、ギリシャ貨物船「ニンフェ」、イギリス貨物船「ハーティスマー」、蘭貨物船「アルチバ」などを撃沈しました。

1942年7月30日にペナンに到着。8月1日にペナンを出港し、12日に横須賀に到着しました。10月21日、伊10は横須賀を出港し、27日にトラックに到着。11月24日、トラックを出港し、ガダルカナル島ルンガ泊地の甲標的による攻撃の支援を行いました。12月18日にトラックに到着しました。

1943年1月5日、伊10はトラックを出港し、ニューカレドニア周辺海域に進出。1月30日には、米リバティ船「サミュエル・ゴンパース」を撃沈しました。3月1日、ニューヘブリディーズ諸島沖で米タンカー「ガルフウェーヴ」を撃破。3月12日にトラックに到着。3月15日にトラックを出港し、21日に佐世保に到着して整備を受けました。5月17日、佐世保を出港して瀬戸内海へ向かい、燃料補給訓練に従事しました。6月2日に佐伯を出港し、12日にペナンに到着。7月にはインド洋で通商破壊戦に従事。7月22日にはノルウェータンカー「アルシデス」を撃沈しました。9月2日、ペナンを出港。この哨戒では、日映のスタッフが乗艦して作戦行動を撮影しました。9月14日、ノルウェータンカー「ブラモラ」を撃沈。9月24日、米リバティ船「エリアス・ハウ」を撃沈。10月1日、ノルウェー貨物船「ストルヴィクセン」を撃沈。10月5日には輸送船団を攻撃し、ノルウェータンカー「アンナ・クヌドセン」を撃破しました。10月24日、イギリス貨物船「コンゲラ」を撃沈。10月30日にペナンに到着。撮影された映像は1944年に映画「轟沈」として公開されました。12月16日、佐世保に到着し整備を受けました。

1944年1月1日、第六艦隊付属となりました。2月3日、佐世保を出港し、10日にトラックに到着。17日、トラック島空襲に遭遇して小破しました。その後、米空母の追撃に出撃しましたが、発見できずにトラックに戻りました。2月25日、トラックを出港し、アメリカ西海岸へ向かいました。3月4日、ミリ環礁東方で爆雷攻撃を受けて損傷し、哨戒を中止しました。3月20日に横須賀に到着し、修理を受けました。5月9日、横須賀を出港し、マーシャル諸島東方沖に進出。6月12日にメジュロを夜間飛行偵察しましたが、搭載機が着水に失敗し破損。6月14日、サイパンの第六艦隊司令部救出に向かうべく、マリアナ諸島東方へ移動しました。6月28日1200、サイパン北東40浬地点付近で、敵哨戒線の突破に失敗したとの報告を最後に消息不明となりました。

アメリカ側の記録によると、7月4日、サイパン島近海で米護衛駆逐艦「リドル」が潜航中の潜水艦を探知し、攻撃を開始しました。その後、米駆逐艦「デヴィッド・W・テイラー」も攻撃に加わり、海中で大きな爆発音がした後、潜水艦の破片と重油が発見されました。これが伊10の最期の瞬間であり、艦長の中島清次中佐以下乗員103名全員が戦死しました。沈没地点はサイパン東北東110浬地点付近。

1944年7月2日にサイパン方面で沈没と認定され、10月10日に除籍されました。

伊号第十潜水艦の撃沈総数は14隻、計81,553トンにのぼり、帝国海軍潜水艦の中では撃沈隻数、トン数ともに第1位を誇ります。また、商船2隻、計16,198トンに損傷を与えました。

歴代艦長

艤装員長
栢原保親中佐：1941年7月31日 - 1941年 10月31日
潜水艦長
栢原保親中佐：1941年 10月31日 - 1942年9月15日
山田隆中佐：1942年9月15日 - 1943年4月15日
殿塚謹三中佐：1943年4月15日 - 1944年1月18日
中島清次中佐：1944年1月18日 - 1944年7月2日（戦死認定、同日付任海軍大佐）

伊号第10潜水艦が登場する作品・記録

鈴木聡司『轟沈日誌』文芸社、2019年 ISBN 978-4-286-19887-3
伊第十潜水艦に乗り込んで映画『轟沈』を撮影した、実在のカメラマンを主人公とした長編戦記小説。
「丸」編集部編『伊号第一〇潜水艦針路西へ！　潜水艦戦記』　光人社文庫、2011年、新装版2021年 ISBN 978-4-7698-3228-7

脚注

注釈

出典

参考文献

日本海軍潜水艦史刊行会編『日本海軍潜水艦史』（非売品、1979年）
木俣慈郎『日本潜水艦戦史』（図書出版社、1993年）
雑誌「丸」編集部『写真日本の軍艦第12巻潜水艦』（光人社、1990年） ISBN 4-7698-0462-8
福井静夫『写真日本海軍全艦艇史』ベストセラーズ、1994年。ISBN 4-584-17054-1
中島義之『五十年ぶりの再会－伊号第六十三潜水艦殉難者に捧ぐ－』（朝日新聞社西部事業開発室編集出版センター、1994年）
防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書第38巻　中部太平洋方面海軍作戦＜1＞昭和十七年五月まで』朝雲新聞社

外部リンク

* I-10（英語） - 伊10の艦歴を紹介。

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