伊唐大橋

伊唐大橋（いからおおはし）

鹿児島県出水郡長島町に位置する伊唐大橋は、長島本島と伊唐島を結ぶ全長675メートルの橋です。この橋は、主橋梁部が5径間連続プレストレストコンクリート斜張橋、両側の取り付け部が単径間プレストレストコンクリート桁橋という構造で、中央支間260メートルは開通当時、コンクリート橋としては日本最長でした。

架橋の背景

伊唐島は、長島本島の属島であり、1995年の国勢調査時点で人口334人、面積3.05平方キロメートル、周囲18.3キロメートルという小さな島です。島の地形は、標高96.9メートルの仁太原を中心としたなだらかな丘陵地帯で、平坦地は少ないです。島民の多くは農業や漁業に従事していました。

架橋前は、長島の宮ノ浦港と伊唐島港を結ぶ約2キロメートルの航路があり、20分の船旅が必要でした。当時、1日2便の客船と1日5便のカーフェリーが運航されていましたが、橋の開通と同時に廃止されました。

長島本島は1974年に開通した黒之瀬戸大橋によって離島ではなくなっており、伊唐島でも架橋の構想が水面下で進められていました。1979年には、島民が架橋運動を開始し、1984年には農業振興を目的とした農道架橋が提案されるようになりました。鹿児島県も伊唐島の農用地開発を推進する中で、本島との交通体系整備を検討していました。

建設の経緯

伊唐大橋の建設は、複数の偶然と関係者の熱意によって実現しました。九州農政局の大型事業終了と、東町長の農林水産省への陳情が合わさったことで、橋の建設に向けた調査費が確保されました。1985年からは県営伊唐島農地開発事業の国直轄調査が開始され、1990年には橋の下部工に着手しました。この橋は、農林漁業用揮発油税財源身替農道整備事業（農免農道）伊唐島地区という事業名で進められました。

設計

伊唐大橋の設計にあたっては、道路規格3種4級、設計速度40km/h、計画交通量1日500台から1500台、設計荷重TL-14などの条件が設定されました。また、航路限界として満潮面から高さ18メートル、幅200メートルが確保される必要がありました。

橋のルートは、3つの案が検討されましたが、経済性、地域性、景観性を比較検討した結果、伊唐島の西側から対岸の長島に渡る摩手浦ルートが選択されました。架橋地点の地盤は、中生代白亜紀の地層などを基盤としており、地盤種別は良好でした。

上部工については、景観性や維持管理費を考慮し、[プレストレスト・コンクリート]斜張橋が採用されました。下部工については、地質、海象、構造特性などを検討し、主橋部の橋脚には多柱式杭基礎、取付部の橋脚には直接基礎が採用されました。

橋の支間割については、5径間とすることで、主桁の変形や斜材張力の変動を抑制することを目指しました。最終的に、主橋部の径間は44+120+260+120+44メートル、両側に43.5メートルの単純PC箱桁橋を取り付け、橋長675メートルとなりました。主桁は2室箱断面の桁高2.0メートル、主塔は準H形が採用されました。

建設工事

1990年12月から下部工に着手し、水深20メートル、複雑な岩盤層、急傾斜、4メートルの干満差、2ノットの潮流といった厳しい条件下で、海上作業台と大型起重機船を用いて作業が進められました。基礎杭の施工には、リバースサーキュレーション工法が用いられ、40本の杭施工に21ヶ月を要しました。

その後、主塔の建設、斜材の架設、主桁の施工が並行して進められました。主桁は、フォルバウワーゲン（移動作業車）を用いて、1ブロック4メートルずつ張り出すように施工されました。主塔は、高い鉛直精度を保つため、内部に鉄骨が配置されました。斜材は、工場で所定の長さに切断され、防錆処理をした上で現場に搬入されました。

PC斜張橋の張り出し施工は、たわみや斜材張力、各部の応力を厳密に管理する必要がありました。伊唐大橋は特に、主塔の剛性が小さく、たわみやすい特性があったため、施工中は各所で測定を行い、慎重に管理が行われました。

また、風による振動対策も重要でした。斜材の耐風対策として、風洞実験や風応答観測が行われ、ダンパーの設置、斜材中間へのクランプの設置、制振ワイヤーの設置などの対策が講じられました。

1995年4月10日には、橋の名称が伊唐大橋に正式決定し、同年7月7日には中央部で桁が連結されました。1996年3月に橋は竣工し、同年8月2日に開通しました。

開通後の影響

伊唐大橋の建設には、農道を含めて総工費129億9000万円、橋に関する部分は106億8400万円が費やされました。人口の少ない伊唐島では、1戸あたり1億円もの費用がかかったという批判もありましたが、橋の開通によって島の生活は大きく改善されました。

開通後、島の人口減少は緩やかになり、小学校の児童数も増加に転じました。農業生産も増加し、中学生は長島の中学校への通学で、船の時刻を気にせずクラブ活動ができるようになりました。また、救急搬送も迅速に行えるようになり、島民の生活に大きく貢献しました。

年表

1979年7月: 伊唐島開発推進委員会結成、伊唐島住民による架橋運動開始。
1984年: 東町が伊唐島農業開発促進期成同盟を結成、農林水産省などへ陳情を開始。
1985年10月: 県営伊唐島農地開発事業の国直轄調査開始。
1986年6月: 伊唐島農道橋海底ボーリング調査開始。
1987年2月: 農地開発事業起工。
1989年1月: 農免農道伊唐地区起工。
1990年12月: 橋の下部工に着手。
1991年7月: 基礎杭の施工開始。
1992年3月: 主塔基礎フーチング施工開始。
1993年3月: 基礎杭施工完了。
1993年5月: 主塔基礎フーチング施工完了。
1995年4月10日: 橋梁名を伊唐大橋に決定。
1995年7月7日: 中央部で閉合、連結式実施。
1996年3月: 橋が竣工。
1996年8月2日: 開通。
1998年 4月1日: 伊唐島の離島振興対策地域の指定解除。

参考文献

元山勝、折田秀三、田中竹二郎「伊唐島架橋の計画」『橋梁と基礎』第26巻第1号、建設図書、1992年1月、27 - 31頁。
星野清治、田口秀実、福田博文、栄捷利、表和義、大村惠治「伊唐島大橋（仮称）の下部工の施工」『橋梁と基礎』第29巻第4号、建設図書、1995年4月、2 - 9頁。
折田秀三「伊唐大橋の連結式行われる」『橋梁と基礎』第29巻第9号、建設図書、1995年9月、49頁。
折田秀三、福田博文、前田勉、藤岡秀信、上迫田和人、佐野忍「伊唐大橋の上部工施工」『橋梁と基礎』第29巻第11号、建設図書、1995年11月、7 - 14頁。
高田浩、元山勝、折田秀三、田中竹二郎「伊唐島大橋（仮称）の計画・設計（概要）」『橋梁』第27巻第1号、橋梁編纂委員会、1991年1月、7 - 21頁。
田口秀実、田中竹二郎、福田博文、栄捷利「伊唐島大橋（仮称）の施工（下部工）」『橋梁』第30巻第4号、橋梁編纂委員会、1995年4月、26 - 34頁。
渡辺明「わが国最大支間のコンクリート橋-伊唐大橋-」『土木学会誌』第81巻第14号、土木学会、1996年12月、6 - 9頁。
鈴木勇次「離島架橋が果たす地域の躍動「伊唐大橋」」『しま』第42巻第2号、日本離島センター、1996年12月、84 - 94頁。
前田勉「伊唐大橋における斜材制振対策経緯について」『水と土』第108巻、農業土木技術研究会、1997年、10 - 18頁。