伊沢蘭軒

伊沢蘭軒（いざわ らんけん）

伊沢蘭軒（1777年 - 1829年）は、江戸時代後期の医師、儒学者として知られています。本名は信恬、蘭軒と号し、辞安という通称や酌源堂という堂号も持っていました。

生涯

安永6年（1777年）に、備後福山藩の藩医の息子として江戸の本郷に生まれました。幼い頃から儒学、医学、本草学を学び、福山藩に仕えることとなります。

蘭軒は学問だけでなく、文化人との交流も盛んでした。著名な漢詩人である菅茶山や頼山陽、狂歌で名を馳せた幕臣の大田南畝、書家の亀田鵬斎、考証学者の狩谷棭斎など、多岐にわたる分野の文化人と親交を深めました。

福山藩主（阿部家）からの信任も厚く、晩年に病で足が不自由になった際には、特別に駕籠に乗って城内へ出仕することが許されたという逸話も残っています。

教育者としても優れており、多くの子弟を育てました。特に、榛軒、柏軒の二人の息子のほか、清川玄道、森立之、岡西玄亭、山田椿庭、渋江抽斎の五人は「蘭門五哲」と呼ばれ、特に著名です。

文政12年（1829年）に亡くなり、麻布長谷寺に埋葬されました。

家族

妻：益（旧姓：飯田）
子：榛軒（1804年 - 1852年）
娘：柏（1835年生）
入婿：棠軒（1833年 - 1875年） - 旧名：田中淳良。杉田玄白の娘・八百と鳥取藩医・田中淳昌の子。
子：柏軒（1810年 - 1863年） - 後に盤安と名乗り、幕府の漢科の奥医師となる。
妻：俊（狩谷棭斎の二女） - 才女として知られ、「今少納言」と呼ばれた。
子：長 - 井戸扇助の妻となる。

蘭門五哲

清川玄道（1838年 - 1886年） - 医師・榎本玄昌の二男で清川金馬の養子。代々玄道を名乗る漢方医の5代目。明治期に漢方医学の復興に尽力。
森立之
山田椿庭
岡西玄亭
渋江抽斎

伝記

森鷗外によって『伊沢蘭軒』という史伝が著されています。この作品は、蘭軒の晩年を描いたものであり、鴎外の歴史小説としても重要な位置を占めています。新版は岩波書店から刊行されている『鴎外歴史文学集』に収録されており、村上哲見らによる注解が加えられています。

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