森立之

森立之（もり りっし）

森立之は、文化4年（1807年）に生まれ、明治18年（1885年）に没した江戸時代後期から明治時代にかけての医師であり、書誌学者としても知られています。通称は養竹、号は枳園と称しました。

生涯

森立之は、江戸の北八丁堀竹島町で生まれました。父は備後福山藩主である阿部家に仕える医師であり、立之も幼い頃から医学の道を志しました。文化14年（1817年）に渋江抽斎の弟子となり、その後、伊沢蘭軒にも師事し、医学の知識を深めました。

しかし、森立之は医学の研鑽だけでなく、歌舞伎にも強い興味を持ちました。舞台を鑑賞するだけでなく、自ら声色を使うことを好み、ついには舞台で役者と共に演じるほどでした。このことが藩の上役に知られ、天保8年（1837年）には阿部家を追放されるという事態に陥りました。家族と共に夜逃げ同然で住まいを離れざるを得なくなったのです。

阿部家を追放された後、森立之は按摩や接骨、獣医などをしながら各地を放浪しました。一時、相模の大磯に落ち着いた後、津久井や勝瀬村へと居を移しながら約12年間を過ごしました。この間も学問への情熱は衰えず、『遊相医話』や『桂川詩集』を著した他、『神農本草経』『素問』『霊枢』『傷寒論』『金匱要略』『扁鵲倉公伝』などの医学書に注釈を加え、本草学の知識を深めました。

その学識の高さから、嘉永元年（1848年）には多紀家の躋寿館に入り、『千金方』の校刻を手伝うよう命じられました。同年5月には、かつて仕えていた福山藩主の阿部正弘から帰藩を許され、再び阿部家に仕えることとなりました。安政元年（1854年）には『神農本草経攷註』を刊行し、医学館の講師に任ぜられました。また、同年末には医学館の『医心方』校刊事業にも助校として参加しました。

安政5年（1858年）には、将軍家茂に謁見を許され、御目見医師に列せられました。明治元年（1868年）には、藩主・阿部正方に従って福山に移り、明治5年（1872年）に東京に戻り文部省十等出仕となりました。その後は医学校や工学寮などで職を転々としましたが、明治12年（1879年）には和漢方医を結集して温知社を組織し、『温知医談』を月刊で発行しました。

明治18年（1885年）、森立之は八丁堀水谷町で生涯を閉じました。享年79歳。音羽洞雲寺に葬られ、長寿院訪古枳園居士という諡号が贈られました。

編著

『経籍訪古誌』
『素問攷注』
『傷寒論攷注』
『本草経攷注』


森立之はその波瀾万丈な人生の中で、医学者、書誌学者として多くの業績を残しました。特に本草学に関する研究は高く評価されており、彼の著した医学書は後世に大きな影響を与えました。

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