伊藤伝七 (10代目)

伊藤伝七（10代目）：三重紡績を創設し、地域経済に貢献した企業家

伊藤伝七（10代目、1852年 - 1924年）は、明治・大正期に活躍した三重県四日市市出身の企業家です。彼は三重紡績（後の東洋紡績）の創設者であり、日本の繊維産業の発展に大きく貢献しました。

生涯

伊勢国三重郡室山村（現在の三重県四日市市四郷地区）の酒造業を営む伊藤家に生まれました。幼名は清太郎といい、元服後に伝一郎と名乗りました。1883年、父である9代目伊藤伝七の死去に伴い、10代目伊藤伝七を襲名しました。

1879年に没した稀代の製糸王、伊藤小左衛門（5代目）の遺志を継ぎ、製糸頭の伊藤小十郎（伊藤小左衛門の子）とともに、綿糸紡績業への進出を決意します。伝一郎は、小左衛門と父の指示のもと、綿糸紡績業に関する調査を行い、1877年には官営の堺紡績所で見習い工として紡績技術を習得しました。

1880年、輸入紡績機械の払い下げを受けて操業を開始しましたが、技術不足と水不足により経営は困難を極めます。しかし、三重県令の紹介で渋沢栄一の知遇を得て、渋沢の援助により、1886年に三重紡績会社として再スタートを切りました。

1906年には緑綬褒章を受章。1918年には貴族院多額納税者議員に当選し、1921年には四郷村役場を建築して寄贈するなど、地域社会への貢献も行いました。1924年8月、72歳でその生涯を閉じました。生前の功績を称えられ、正六位が授与されました。

三重紡績の設立と発展

伊藤伝七は、父である9代目とともに三重紡績所を起業し、繊維業界の発展に貢献しました。9代目伝七と5代目伊藤小左衛門は従兄弟同士であり、9代目伝七は明治初年に綿糸紡績業経営を志し、鹿島万平に教えを請いました。10代目伝七は、幼少の頃から秀才であり、20歳で副戸長に就任しています。

1883年には、水力を動力とする三重紡績所を三重県川島村（四日市市川島地区）に創設しました。当初は経営が振るわなかったものの、渋沢栄一の支援を受け、1886年に株式会社組織の三重紡績会社として再出発しました。九鬼紋七や八巻道成とともに同社の創立委員に選ばれ、翌年には委員兼支配人に就任。技術長には、工部大学校卒の斎藤恒三（のち東洋紡社長）を迎えました。

三重紡績は、日清戦争の特需を背景に大きく成長し、明治30年代には三重県や愛知県下の紡績会社を次々と吸収合併し、日本屈指の紡績会社となりました。1914年には、渋沢栄一が創業した大阪紡績と合併し、東洋紡績を設立。10代目伝七は、1916年から1920年まで東洋紡績の2代目社長を務め、その後も相談役として同社の発展に尽力しました。

地域社会への貢献

伊藤伝七は、企業家としてだけでなく、地域社会への貢献も積極的に行いました。四日市商工会議所の副会頭を務め、1918年には三重県多額納税者として貴族院議員に互選されています。また、私財を投じて三岐鉄道の基礎となる日本横断鉄道を計画しました。四郷村役場を寄贈したことは、地域住民への奉仕の精神を示す好例です。これらの功績により、彼は四日市市にとってかけがえのない人物として、その名が刻まれています。

伊藤家の歴史

伊藤家は代々室山で農業を営み、中世には質屋経営や木綿仲買業も兼業していました。8世伊藤伝七が清酒の醸造業を始め、商人としての家業を確立しました。9世伊藤伝七は、年寄役や庄屋などの役職を務め、その功績により苗字帯刀を許されました。明治維新後は、酒造用の機械を制作し、三重県内の博覧会で度々受賞しています。

三重紡績の拡大

三重紡績は、工場の新設と企業の吸収合併によって拡大しました。1889年に三重紡績第二工場、1893年には名古屋市に三重紡績分工場、1897年には津市に新工場を建設。1901年には伊勢紡績を買収し、1905年には名古屋市に関西紡績と合併。その後も、津島紡績や大阪西成紡績、桑名紡績所、知多紡績所などを次々と買収し、規模を拡大していきました。また、麻糸製だった高価な漁網を初めて綿糸で製造することに成功しました。

その他の要職

伊藤伝七は、四日市商業会議所副会頭や日印貿易合資業務担当委員、四日市倉庫取締役、三重鉄工所取締役、三重県農工銀行取締役、伊藤メリヤス商会相談役、四日市製紙取締役、東海倉庫取締役、豊田式織機監査役、大日本ホテル取締役、福寿生命保険取締役、愛知電気鉄道監査役、三重軌道取締役など、様々な要職を歴任しました。

伊藤伝七は、日本の近代化を支えた偉大な企業家の一人として、その名が歴史に刻まれています。

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