苗字帯刀

苗字帯刀とは

苗字帯刀（みょうじたいとう）とは、江戸時代の武士とその支配層の役人や関係者が、自己の身分を明確にするために用いた標識です。これは単に家名を公に名乗るだけでなく、武士の象徴である刀を腰に帯びる行為を含みます。

概要

苗字帯刀の「苗字」とは、特に領地の名前に由来する家名を公に名乗ることを指します。これは、単なる私的な呼び名ではなく、領主階級としての身分を示すものでした。また、「帯刀」とは、武士が刀などの武具を身につけることで、武門であることを示す行為です。これにより、自身が領主階級であり、その一族であることを明確にしました。さらに、支配層は功績のあった者に対し、その褒章として一代または永代にわたり苗字帯刀の権利を授与しました。

豊臣秀吉による刀狩りは、この苗字帯刀の身分標識化を目的としたものでした。しかし、江戸時代に入ると、幕府は銃刀の規制に消極的で、町人の間にも帯刀が普及しました。特に江戸では、装束として刀や脇差を帯びることが許容されていました。1720年の布令までは、町人も脇差を常時帯刀しており、1683年までは祭礼や遊里、旅行などの特別な場合には、二刀を差すこともありました。ただし、長刀に関しては1668年に町人の帯刀が禁止されましたが、脇差の制限はありませんでした。

苗字についても、百姓や町人にも祖先や家名が存在しましたが、公の場で使用することは禁止されました。これは、身分の差別化を図るための措置であり、公文書への記載が許されず、墓碑銘や過去帳などの私的な場でのみ使用が認められました。

苗字帯刀の権利

苗字帯刀の権利は、武家の棟梁である将軍家（幕府）、その直臣である旗本、そして各藩の大名など、小身の領主を含む君主階級によって決定されました。藩によっては、苗字をめぐる訴訟が起こり、藩が裁決を下すこともありました。

伊能忠敬の例では、領内では「伊能」姓を許されていたものの、領外では名乗ることができませんでした。しかし、蝦夷地測量の功績により、幕府から改めて苗字帯刀の許可を得て、領外でも「伊能」姓を名乗ることが許されるようになりました。

苗字と帯刀の特権は必ずしも一体ではなく、苗字は認められても帯刀は認められない場合や、苗字は子孫への伝承が許されても、帯刀は当人一代に限られる場合もありました。これらの基準は、功績によって異なりました。

また、大名や旗本は、家柄や功労により、領内の有力な百姓や町人に苗字帯刀を許すことがありましたが、これはあくまで武士身分とは異なり、武士身分化には、召し抱えや相続人への身分と財産の譲渡、人別帳からの離脱手続きが必要でした。郷士は在郷武士として苗字帯刀を許されながら農村に住んでいましたが、京都町奉行所の例では、家ではなく、当主個人に免許され、子息も別に免許が必要とされました。

享保のころから、帯刀が身分特権として確立すると、帯刀権への憧れが生まれました。様々な由緒を主張し、役儀や非常時、儀式など非通常時の帯刀権限を免許される者が増え、違反や常態化、子息や従者への拡大が起こり、取り締まりが行われましたが、違反は後を絶ちませんでした。また、江戸時代後期には、武士が無刀や脇差だけで外出すると処罰されるようになりました。

幕末の元治元年（1864年）の第一次長州戦争の2年前から、幕府直轄地や旗本知行地で百姓徴兵が始まり、下層奉公人として一時的に脇差帯刀が免許されました。長州藩でも、奇兵隊は志願兵でしたが、それ以外の町方から徴募した農商兵には、訓練後に合格すると苗字帯刀が許されました。

終焉

明治維新後の1870年（明治3年）に平民苗字許可令が出され、平民が公に苗字を名乗ることが許されるようになりました。さらに、1876年（明治9年）の廃刀令によって刀を帯びることが禁止され、苗字帯刀の制度は終焉を迎えました。

まとめ

苗字帯刀は、江戸時代の社会において、身分を明確にするための重要な制度であり、武士階級の特権を示すものでした。しかし、時代とともにその意味合いも変化し、幕末には身分を超えた動きも生まれ、明治維新を経て完全に廃止されました。この制度は、日本の歴史における身分制度と社会構造を理解する上で重要な要素です。

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