伊藤悠貴

伊藤 悠貴（いとう ゆうき）

日本の著名なチェロ奏者であり、指揮者としても活動する伊藤悠貴氏は、現在ロンドンを拠点に国際的なキャリアを展開しています。株式会社ジャパン・アーツに所属し、特に作曲家セルゲイ・ラフマニノフの作品に対する深い探求と演奏をライフワークとしています。その成果として、2012年にはラフマニノフのチェロ作品を網羅した全集アルバムを発表し、2023年には生誕150周年を記念して学術単行本『ラフマニノフ考』を上梓するなど、演奏家として異例の研究活動も行っています。

経歴

1996年、伊藤氏は東京児童劇団のオーディションで最高得点を獲得しますが、同時期に開講されていた桐朋学園子供のための音楽教室への道を選択します。そこでチェロと出会い、倉田澄子氏に師事することとなりました。2004年に渡英し、ロンドンでアレクサンダー・ボヤルスキー氏、さらに名チェリスト、ダヴィド・ゲリンガス氏に師事し研鑽を積みます。2015年には王立音楽大学を卒業する際、最優秀弦楽器奏者賞を受賞するなど、首席で全課程を修了しました。

16歳でロンドンにてコンチェルト・デビューを果たし、さらにクロアチア各地でのリサイタルツアーを通じてヨーロッパデビューを飾ります。2010年に行われた第17回ブラームス国際コンクール、そして2011年の第3回ウィンザー国際弦楽コンクールでは、日本人チェロ奏者として初の優勝を飾り、これがロンドンでの本格的な音楽活動の礎となりました。2011年にはウィンザー城で開催されたウィンザー音楽祭開幕演奏会にソリストとして登場し、フィルハーモニア管弦楽団との共演でドヴォルザークのチェロ協奏曲を披露し、プロ・デビューを果たしました。

以降、国内外の主要オーケストラとの共演を重ねるほか、ウラディーミル・アシュケナージ、小澤征爾、ダヴィド・ゲリンガス、小林研一郎、スヴェトラーナ・ザハーロワ、ヨハン・デ・メイなど、多岐にわたる分野の世界的アーティストたちと共演を重ね、その活動の幅を広げています。

ラフマニノフへの貢献

伊藤氏の音楽活動において、セルゲイ・ラフマニノフ作品への深い傾倒は特筆すべき点です。日本人チェロ奏者として唯一、ラフマニノフのチェロ作品全集アルバムを英国チャンプスヒル・レコード社よりリリースし、国内外で高い評価を得ています。特にチェロソナタの演奏・解釈は著名であり、英メジャー音楽誌「ストラド」で「今月の一枚」に選出され、ラフマニノフのチェロ作品における名盤の一つとされています。2018年には、世界三大室内楽ホールの一つであるロンドンのウィグモア・ホールにて、ホール史上初となるチェロによるオール・ラフマニノフ・リサイタルを成功させました。

また、2023年にはラフマニノフ生誕150周年を記念し、演奏家の視点からその音楽像を考察した学術書『ラフマニノフ考』（恵雅堂出版）を刊行。これは演奏家としては極めて異例の出版であり、彼のラフマニノフ研究の深さを示しています。同年、横浜みなとみらいホールでラフマニノフ本人が所有していたピアノ「ラフマニノフ・スタインウェイ」を用いた記念リサイタルを開催するなど、多角的な活動を展開しています。

その他の活動と受賞

メジャーデビュー5周年の2016年には、宮沢賢治生誕120年を記念したNHKでのリサイタルが全国・世界放映されました。また、2014年にはロイヤル・フェスティバル・ホールにてロリン・マゼールの前座リサイタルを行うなど、重要な演奏会に多数出演しています。イギリス人作曲家であるフランク・ブリッジやフレデリック・ディーリアス、ジョン・アイアランドらのチェロ作品を日本に紹介する活動も積極的に行っています。

これまでの功績に対し、国内外で数々の栄誉が与えられています。主なものとして、札幌ジュニアチェロコンクール、泉の森ジュニアチェロコンクール、日本演奏家協会コンクールでの優勝をはじめ、アントニオ・ヤニグロ国際チェロコンクール（クロアチア）、国際フラムコンクール（フランス）、ブラームス国際コンクール（オーストリア）、ウィンザー祝祭国際弦楽コンクールでの優勝などがあります。2019年には、日本の音楽芸術文化への多大な貢献が認められ、第17回齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞しています。

メディアへの出演も多く、NHK「クラシック倶楽部」やテレビ朝日「題名のない音楽会」など、多数のテレビ番組に出演し、その演奏や音楽観を広く伝えています。

アルバム・書籍

CD『セルゲイ・ラフマニノフ：チェロ作品全集』（2012年）
CD『伊藤悠貴／ザ・ロマンティック』（2017年）
CD『伊藤悠貴／雁部一浩：歌曲全集』（2020年）
CD『アダージョ』～孤独のアンサンブル～（2021年）
書籍『ラフマニノフ考』〜チェロ奏者から見たその音楽像〜（2023年）
CD『カサノヴァ』〜ヨハン・デ・メイ：チェロ＆ハープ＆ウインドオーケストラのための作品全集〜（2024年）

伊藤悠貴氏の活動は、チェロ演奏、指揮、音楽研究と多岐にわたり、特にラフマニノフ作品における貢献は、演奏家としてだけでなく研究者としても注目を集めています。ロンドンを拠点に、今後もその活躍が期待されています。

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