伊谷以知二郎

伊谷以知二郎：日本の水産学の発展に貢献した先駆者

伊谷以知二郎（1864年12月31日 - 1937年3月30日）は、明治から昭和初期にかけて日本の水産学界を牽引した人物です。東京海洋大学（旧水産講習所）の創立に尽力し、大日本水産会や日本水産学会の会長を務めるなど、水産業界の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと苦難の時代

伊谷は、紀州藩士・田中傳の次男として、江戸の紀尾井町にあった藩邸で生まれました。幼少期から学問に励むも、15歳で入学した三菱商業学校予備科が廃校となり、独学を余儀なくされます。その後、伊谷家の養子となり家督を継ぎましたが、父が関わった鉱山事業の失敗により、13歳から32歳頃まで困窮した生活を送りました。苦しい生活の中、21歳から23歳までは『日蓮宗教報』の編集人として活動しました。

水産学への道

1888年、伊谷は水産伝習所に入学し、水産学の道を歩み始めます。関沢明清、金田帰逸、河原田盛美、山本由方、内村鑑三、松原新之助といった錚々たる面々が教師を務める中、伊谷は才能を開花させます。在学中には、他の生徒と共同で執筆した「水産蕃殖備考」を内国勧業博覧会に出品し、「有効三等賞」を受賞しました。

1890年、水産伝習所を1期生として卒業後、大日本水産会の会報編集に携わる傍ら、母校である水産伝習所で寄宿舎監や講師を務めました。1893年には、水産伝習所の所長に就任し、その手腕を発揮します。

水産講習所（現 東京海洋大学）への貢献

1897年、水産伝習所が農商務省管轄の水産講習所となると、伊谷も農商務省の職員となり、技手や技師として勤務しました。1904年には、セントルイス万国博覧会に派遣され、学術研究会議員を命じられます。この訪米時に、アメリカの水産加工業を7ヶ月にわたり視察し、帰国後には、当時日本では食用とされていなかったベニザケの缶詰製造や、初の船上でのカニ缶詰製造を手がけました。

1917年、水産講習所の所長に就任し、水産製造学を教鞭をとりました。所長時代には、入学資格や就学年数、科目などの改革を断行し、教育制度の改善に尽力しました。1923年の関東大震災で講習所が全壊すると、その再建にも奔走しました。

その後

1924年、水産講習所長を辞任し、日本勧業銀行参与理事に就任しました。その後、大日本水産会会長、日本水産学会会長などを歴任し、水産業界の発展に貢献しました。大日本水産会会長時代には、後に内閣総理大臣となる鈴木善幸が秘書を務めていました。

1937年3月30日、胃癌のため逝去。享年74歳（満72歳没）。墓所は新宿区の本性寺にあります。

伊谷以知二郎は、日本の水産学の基礎を築き、水産業界の発展に多大な貢献をした功績者として、その名が後世に語り継がれています。

参考文献

* 鈴木善幸『伊谷以知二郎伝』伊谷以知二郎伝刊行会、1939年（1969年再刊）

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