伊那衆

伊那衆の歴史と役割

伊那衆（いなしゅう）は、信濃国の伊那地域を中心に展開した中世の国人衆であり、江戸時代には交代寄合としての側面を持つ重要な存在でした。彼らは「信濃衆」とも称され、特に近世には知久氏、小笠原氏、座光寺氏の三家が伊那衆を構成しました。国人衆の成り立ちや彼らの役割が、地域の歴史にどのように影響を与えてきたのかを概観します。

中世の伊那衆

中世の日本では、南北朝時代において在地の領主である国人衆が力をつけていきました。永享12年（1440年）には、信濃国で行われた結城合戦に多くの伊那の国人や地侍が参加し、地域の重要な戦力としての地位を確保していました。その後、武田信玄家の統治が始まる前の様々な内紛を契機に、信濃国は戦国時代の激動期に突入します。

特に天文23年（1554年）には、武田氏が伊那郡全体を制圧し、伊那地域の支配が本格的に始まりました。武田氏は高遠城と大島城を拠点として支配を進め、高遠城を中心とする上伊那衆と、大島城を拠点とする下伊那衆に分かれました。この動きにより、両地域の国人衆は武田勝頼に従い、それぞれの拠点での防衛にあたりました。

しかし、天正3年（1575年）の長篠合戦で武田勝頼が敗北した後、信濃地域は混乱を極めます。天正10年（1582年）に木曽氏の謀叛が発生し、織田信忠が信濃に侵攻すると、多くの国衆は織田方に寝返りました。大島城では逃げる者が多く、戦わずして明け渡され、高遠城でも抗戦するも落城する運命を辿りました。このように、伊那衆は時代の狭間で大きな影響を受けました。

近世の交代寄合

近世に入ると、伊那衆は交代寄合としての性格が強まりました。秀吉の時代以降、国人衆は幕府から与えられた知行地に基づいて生活を営み、その中で知久氏、小笠原氏、座光寺氏の三家が伊那三家として名を馳せます。交代寄合としての制度が本格化するのは18世紀以降ですが、17世紀の段階では「信濃衆」との呼称が確認されていないため、その詳細は不明な点が多いとされています。

知久氏

知久氏は、信濃国阿島を本拠地とし、3000石以上の石高を有していました。関ヶ原の戦いの後、領地を安堵され、幕府からいくつかの関所と1300石余の管理を命じられました。彼らの活動は地域の治安維持に寄与したとされています。

小笠原氏

小笠原氏は信濃国伊豆木を拠点とし、1000石以上の石高を持っていました。小笠原長巨は、慶長5年に徳川家康から御下知を受け、地域の発展に貢献しました。彼の支配下で、地域の文化が繁栄したことも記録されています。

座光寺氏

座光寺氏も信濃国山吹を基盤にしており、約1400石の石高を有していました。家康に逆心を報告し、評価された座光寺氏は、関ヶ原の戦い後に本国に戻り、地域の支配を確立しました。

結論

伊那衆は中世から近世にかけて信濃地域の政治や文化の中心として機能し、地域社会の構築に寄与しました。国人衆としての歴史的背景や近世の交代寄合としての役割は、信濃国の発展に欠かせない要素でありました。彼らの存在が地域の歴史や社会に与えた影響は、今なお多くの研究が行われているテーマです。

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