伊那電気鉄道デキ10形電気機関車

伊那電気鉄道デキ10形電気機関車

伊那電気鉄道デキ10形電気機関車は、1927年（昭和2年）に伊那電気鉄道が新製した直流用電気機関車です。伊那電気鉄道は現在のJR東海飯田線の一部にあたる路線を運営していました。この機関車は、同社の戦時買収・国有化に伴い、国有鉄道（鉄道省）に編入され、戦後ED32形と改番されました。

概要

デキ10形は1927年6月に三菱電機（電気部分）と三菱造船所（機械部分）によって製造されました。1両のみが製造され、デキ10形10という番号が与えられました。外観は、運転室の前後に短い機械室（ボンネット）を備える凸形車体が特徴的です。台車は棒台枠釣り合い梁式を採用しており、これはウェスティングハウス・エレクトリック（WH）社製電気機関車の国内模倣製品の特徴を表しています。

乗務員扉は前後妻面の左側に設置されており、それに伴い機械室が右側に偏って配置されています。これはWH社製機関車の特徴を踏襲していますが、機械室の位置がやや車体中心寄りである点が、他の模倣機との相違点です。同様の設計で三菱が製造した機関車には、大阪鉄道のデキA形や三河鉄道のキ10形などがあります。

パンタグラフは運転室屋根の中央部に1基搭載され、連結器はシャロン式上作用型並形自動連結器を前後に備えています。

導入後の変遷

1943年（昭和18年）に伊那電気鉄道が戦時買収により国有化されると、本形式も鉄道省籍に編入されました。買収後も、伊那電気鉄道時代の番号のまま使用されましたが、1952年（昭和27年）の車両称号規程改正により、ED32形ED32 1と改称・改番されました。伊那電気鉄道の路線は架線電圧1,200Vでしたが、国有化後に1,500Vへの昇圧工事が行われ、本形式も昇圧に対応した改造が施されました。この際、一部の主要機器は国鉄制式機器に換装されています。

本形式は、製造から国有化後にかけて一貫して伊那松島機関区に配置され、天竜峡以北の飯田線で使用されました。1960年（昭和35年）2月に廃車となり、岳南鉄道に譲渡されました。

岳南鉄道では、国鉄時代の形式番号のまま使用されました。パンタグラフは、従来の車体中央部1基から車体端部2基へと増設され、前面窓も運転士側に1枚だったものが中央にもう1枚増設されました。主に貨物列車の牽引や構内入換に使用されましたが、1976年（昭和51年）の水害で路線が寸断された際、終点の岳南江尾駅に取り残され、運用を離脱しました。長期間休車となった後、1988年（昭和63年）に廃車・解体処分されました。

参考文献

電気車研究会『鉄道ピクトリアル』

関連項目

飯田線
* 岳南鉄道

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