会社員生活

映画『会社員生活』について

『会社員生活』は、1929年10月25日に公開された日本の映画で、松竹キネマが製作および配給を手掛けました。この作品は、著名な監督である小津安二郎が手がけたモノクロのサイレント映画であり、上映時間は57分です。映画の内容は、金融恐慌の影響が色濃く反映された時代背景を持ち、サラリーマンにまつわる悲喜こもごもを描いています。

作品の背景

本作は、前作『大学は出たけれど』と同様に、経済的な不況がもたらす失業というテーマを扱っています。公開当時、サラリーマンという職業は成長していたものの、経済的不安から多くの人々が職を失うという困難に直面していました。この時代の日本社会におけるサラリーマンの生活や、家庭内で抱える複雑な感情を、主人公の塚本を通して描写しています。

物語の概要

物語は、主人公・塚本信太郎が中心に展開します。彼は、妻が自分のボーナスを期待しているため、失業の事実を隠さざるを得なくなります。彼の友人が訪ねてきて、自分が勤務する会社での仕事を紹介しようとしますが、事情を知らない妻はこれを断ります。その後、塚本の同僚が家に来て、彼の復職の可能性を伝えることになります。この真実を知った妻は激しく怒りますが、最終的には友人の助けを借りて問題が解決します。家庭内の葛藤やサラリーマンとしてのプレッシャーを通じて、塚本とその家族の絆が試される様子が描かれています。

映画製作の特徴

『会社員生活』では、まだデビューから2年目の小津監督が、当時のベテラン監督・村田実と比較されるほどの評価を受けていました。映画には、後の小津作品では見られない独特のオープニングオーバーラップが使用されており、当時の技法が色濃く残っています。特に、子役の青木富夫のデビュー作であり、その後の彼の活躍の原点ともなっています。

スタッフとキャスト

本作の監督兼原案は小津安二郎で、脚本は野田高梧が担当しました。撮影は茂原英雄によって行われています。キャストには、塚本役の斎藤達雄、妻の福子役を吉川満子が演じており、その他にも長男や次男、三男をはじめとする多彩なキャストが揃っていましたが、何よりも主人公の感情と家庭の絆が強調されています。

現在の状況

『会社員生活』は、初回の興行が帝国館で行われ、当時の観客に衝撃を与えました。しかし、現在は脚本やネガ原版、上映用のプリントなどが散逸してしまい、映像作品としての保存も問題視されています。日本映画の歴史に名を刻む作品であるにも関わらず、観ることができる資料が少なく、貴重な存在となっています。経済危機と家族のドラマを通して、今なお多くの人々に考えさせる作品として位置づけられています。

もう一度検索