佐伯部

佐伯部（さえきべ）についての詳細

佐伯部は、古代日本における重要な品部の一つであり、特にヤマト王権の拡大期において特異な役割を果たしました。この部は、中部地方以東の東日本に広がる地域において、捕虜として得られた現地人たちを統合し、編成されたものです。

形成の背景

『日本書紀』の記述によれば、日本武尊は東征において捕虜となった蝦夷を一度は伊勢神宮に奉納しましたが、その後、彼らは神宮に対して無礼を働くため、別の対応が求められました。倭姫命の命によって、これらの捕虜は京都の朝廷に引き渡され、その後、三輪山の麓に住まわせることになりましたが、再び神社に無礼を働いたため、景行天皇の命令により、播磨・讃岐・伊予・安芸・阿波の五つの国に移されることになりました。この移住が、佐伯部の起源として伝えられています。

また、別の伝承によると、猪名県に住む佐伯部の者が仁徳天皇が隠れた鹿を狩り、献上したことで天皇の怒りを買い、安芸国渟田へ移されたことも、佐伯部の名前の由来に関わっているとされています。これらの物語の歴史的な事実性はともかくとして、古墳時代の中頃である5世紀から6世紀にかけて、東国の人々を五つの国に移住させ、それを基に佐伯部が組織されたことは確かです。この部は、「佐伯直」や「佐伯造」といった在地の豪族によって管理され、最終的には中央豪族の佐伯連によって統括されるようになりました。

部の名称の由来

佐伯部という名称の由来は、平安時代以降、「叫ぶこと」に関連するものとされてきました。しかし、『常陸国風土記』の茨城郡の記載を見ると、地元の人々が権力に対して抗った事例が取り上げられており、「障（さへ）ぎる者（き）」、つまり権力に逆らう者を意味する可能性が指摘されています。また、景行天皇の紀には「騒いだ」との記述があり、彼らが呪術的儀礼を行って邪霊を追い払うことに従事していたため、「サハグ部」とする説も存在します。さらに、彼らが使用する言語が周囲の人々には馴染みがなく「騒（さえ）ぐ」ように聞こえたことが由来とされることもあります。

まとめ

これらの複雑な由来と背景を持つ佐伯部は、古代日本において地方と中央をつなぐ重要な役割を担い、その存在は個々の豪族や国家の歴史を形作る一助となりました。佐伯部に関する献納や移住の伝承は、古代の人々の政治的・社会的状況を物語るものであり、私たちの知らなかった古代日本の姿を垣間見る手がかりとなります。

参考文献

• - 日本古典文学大系『日本書紀 上』（新装版）、岩波書店、1993年
• - 鎌田元一「部民制の展開」（『日本の古代6 王権をめぐる戦い』、中央公論社、1986年）
• - 佐伯有清『新撰姓氏録の研究 考證篇 第二』吉川弘文館、1982年

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