佐藤嘉尚

佐藤嘉尚：時代を駆け抜けた編集者、作家

佐藤嘉尚（さとう よしなお）は、1943年11月8日に秋田県で生まれ、2011年11月19日に68歳で亡くなった、作家であり編集者です。彼は里井鵠治（サトイ コウジ）の筆名でも知られています。

生い立ちと初期のキャリア

秋田県山本郡二ツ井町（現在の能代市二ツ井町）で生まれた佐藤は、秋田県立秋田高等学校を経て慶應義塾大学に進学。大学中退後、1966年に東京新宿の大光社に入社し、編集者としてのキャリアをスタートさせました。入社早々に手掛けた丸山明宏（美輪明宏）の『紫の履歴書』がベストセラーとなり、その手腕を発揮。1969年には、入社3年目にして編集長に昇進しました。

編集長として、金子光晴の『人非人伝』、吉行淳之介の『生と性』『なんのせいか』、大岡昇平の『戦争』、泉靖一や西江雅之との共著『構造主義の世界』、大島渚の『青春』、中原弓彦の『笑殺の美学』など、話題性と質の高い書籍を次々と刊行し、出版業界でその名を知らしめました。

「面白半分」の創刊と四畳半襖の下張事件

1971年、佐藤は独立して株式会社面白半分を設立し、社長に就任。同年12月には月刊雑誌『面白半分』を創刊しました。吉行淳之介、野坂昭如、開高健、五木寛之、藤本義一、金子光晴、井上ひさし、遠藤周作、田辺聖子、筒井康隆、半村良、田村隆一など、錚々たる作家陣を歴代編集長に迎え、同誌は1970年代の活字文化を代表する雑誌へと成長しました。

しかし、1972年、『面白半分』7月号に永井荷風作と伝えられる好色小説「四畳半襖の下張」を掲載したことがきっかけで、わいせつ文書頒布罪に問われることになります。佐藤は野坂昭如とともに書類送検され、起訴。1980年、最高裁判所にて罰金15万円の有罪判決を受けました。この事件は「四畳半襖の下張事件」として知られています。

多彩な活動と晩年

『面白半分』は1980年に終刊となりましたが、佐藤の活動は止まりませんでした。1978年には、肥満体の集団「大ピ連（大日本肥満者連盟）」を組織し、小林亜星を会長に据えるなど、ユニークな活動も展開しました。

1981年には房総半島南端の千葉県館山市に移住し、ペンション「かくれんぼ」を経営。1988年には、かくれんぼを含む7軒のペンションを統合し、ホテルオーパ・ヴィラージュの開設に関わりました。日本ペンションフォーラムの代表も務め、ペンション業界の発展に貢献しました。その後、1988年にペンションを閉じ、企画・編集会社アワ・プランニングを設立し、再び出版業界へと戻ります。

1991年の自民党総裁選挙では宮澤喜一の広報を担当し、宮澤政権の誕生に貢献。また、彼が提唱した「伊能ウォーク」（平成の伊能忠敬・ニッポンを歩こう）は、1999年から2001年までの2年間、朝日新聞創刊120周年記念事業として実施されました。晩年は株式会社フォーメンズ出版の編集長を務めました。

2011年11月19日、肺がんのため千葉県市川市の病院で死去。68歳でした。

著書一覧

面白半分ないしょ話（1982年、大陸書房）
ぼくのペンション繁昌記（1984年、集英社文庫）
全国ペンション100選①②（1986年、佐藤嘉尚とペンション探険隊編、新潮文庫）
ペンション村ラプソディ（1986年、朝日新聞社）
風と歩く　小説・伊能忠敬と四人の妻たち（1999年、KSS出版）
伊能忠敬を歩いた（2001年、新潮文庫）
「面白半分」の作家たち　70年代元祖サブカル雑誌の日々（2003年、集英社新書）
歩々清風　金子智一伝　ウオーキングとユースホステルに生きた男（2003年、平凡社）
「面白半分」快人列伝（2005年、平凡社新書）
潜る人　ジャック・マイヨールと大崎映晋（2006年、文藝春秋）
新宿の1世紀アーカイブス 写真で甦る新宿100年の軌跡（2006年、生活情報センター、LIC）
40年前の東京　昭和38年から昭和41年 春日昌昭のトウキョウ（2006年、生活情報センター、LIC）
孤高の国民作家　夏目漱石（2006年、生活情報センター、LIC）
「面白半分」ベスト随舌選（2007年、文藝春秋）
選挙バカ狂騒曲（ラプソディ）（2008年、フォーメンズ出版）
人を惚れさせる男　吉行淳之介伝（2009年、新潮社）

佐藤嘉尚は、出版業界にとどまらず、ペンション経営、地域振興、政治広報など、多岐にわたる分野で活躍しました。彼の情熱と行動力は、多くの人々に影響を与え、その足跡は今もなお、語り継がれています。

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