佐野一男

佐野 一男（さの かずお）は、1928年から1993年にかけて活躍した日本の実業家です。埼玉県粕壁町（現在の春日部市）に生を受け、郷土の発展に貢献しました。

大学を卒業した後、佐野一男氏は株式会社伊勢屋に入社。そして1973年、同社の代表取締役社長に就任しました。彼は単に一企業の経営者としてだけでなく、各種団体の長としても活動し、春日部市の地域社会の発展に尽力しました。その指導力は、後に続く世代にも大きな影響を与えたと言われています。

彼が経営者となった伊勢屋は、慶長年間に佐野伊兵衛が武蔵国粕壁宿（現在の埼玉県春日部市）で荒物商として創業したのが始まりとされます。当時は日光道中の宿場町として発展していた粕壁において、伊勢屋伊兵衛家は街道有数の老舗へと成長しました。その後、創業者伊兵衛の弟である惣兵衛が米穀商として分家し、伊勢屋惣兵衛家（通称：伊勢惣）を起こしました。両家は名字帯刀や裃着用が許されるなど、創業400年以上を誇る格式高い商家でした。

かつての粕壁宿、特に昭和時代の終戦後には、戦災を免れた伊勢屋をはじめとする豊かな財を築いた商家が軒を連ね、広大な敷地に黒漆喰の土蔵群が立ち並ぶ重厚な景観が見られました。特産の桐箪笥を扱う大塚家や島村家、そして丸屋といった素封家も居を構えていました。日光街道を挟んで向かい合っていた老舗大商家、伊勢屋と伊勢惣の店舗建築は江戸時代にまで遡るとされ、分厚い鬼瓦や三連観音開きの扉、黒漆喰の店舗に白漆喰の袖蔵を持つ重厚な土蔵が連なる様は、歴史的にも非常に価値の高い大規模な商家建築でした。

しかし、バブル期以降に進められた春日部市の旧市街再開発事業により、街の姿は大きく変わります。道路は拡張され、建物は高層化が進み、多くの古い商家が取り壊されて旧街道沿いから姿を消しました。創業400年を誇り、重要文化財級とも言われた老舗大商家伊勢屋と伊勢惣の店舗建築も、15代当主であった佐野一男氏の没後、この再開発事業によって解体され、旧街道沿いからその姿を消しました。現在の旧粕壁宿地域の多くは、鉄筋コンクリート造りのマンションなどが立ち並び、往時の江戸時代の面影は薄れつつあります。川越市のように文化財としての街並み保存や活用ができなかったかと、歴史的な古民家建築の消失を惜しむ声が多く聞かれます。

佐野一男氏と関連の深かった人物としては、古くから粕壁（春日部）の有力商家として知られる大塚家（大塚家具）、島村家（島忠）、新井家（マルヤ）の関係者、親族である実業家の前原章宏氏（とりせん）、小島勝平氏（コジマ）のほか、埼玉県政に関わった三枝安茂氏（春日部市長）や土屋義彦氏（参議院議長・埼玉県知事）などが挙げられます。

佐野氏に関する資料は、春日部郷土資料館に寄贈された「かすかべの宝もの 江戸時代の暮らしと文化」に収められた伊勢屋の帳簿や手習書の写真、埼玉県立歴史と民俗の博物館に寄贈された民俗資料などがあります。また、「春日部市史 近世史料編」や春日部デジタル写真館なども参考となります。

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