アレクサンドル・アストリュック

アレクサンドル・アストリュック：映画理論と実践の先駆者

アレクサンドル・アストリュック（Alexandre Astruc, 1923年7月13日 - 2016年5月19日）は、フランスの映画界において、監督、脚本家、批評家、そして作家として多岐にわたる才能を発揮した人物です。特に「カメラ＝万年筆」という独自の映画理論を提唱したことで知られ、ヌーヴェルヴァーグ（フランスの新しい波）の先駆けとなる作品『恋ざんげ』を監督したことで、映画史にその名を刻みました。

生い立ちとキャリアの始まり

1923年、パリでジャーナリストの両親のもとに生まれたアストリュックは、当初は理系の道を志しましたが、最終的には法学と文学の学位を取得し、ジャーナリズムの世界へと進みました。彼は、Combat、Réforme、Opéra、Les temps modernesなどの主要な新聞や雑誌に署名入りの記事を執筆しました。また、1945年以降は、『シネ・ディジェスト』、『アクション』、『パリ・マッチ』といった媒体で演劇、文学、映画に関する批評を精力的に行いました。

「カメラ＝万年筆」理論の提唱

アストリュックの最も重要な貢献の一つは、1948年に『レクラン・フランセ』誌で発表した論文「カメラ＝万年筆、新しき前衛の誕生」です。この論文で、彼は映画監督が自身の思想や感情を直接的に表現するために、カメラをあたかも万年筆のように使うべきだと主張しました。この理論は、アンドレ・バザンをはじめとする多くの批評家や映画製作者に衝撃を与え、後の作家主義の思想的基盤となりました。

ヌーヴェルヴァーグへの影響

1949年には、バザン、ジャン・コクトー、ロベール・ブレッソン、ジャック・ドニオル＝ヴァルクローズらと共にシネクラブ「オブジェクティフ49」を設立し、映画文化の発展に貢献しました。同年に開催された「第一回呪われた映画祭」にも尽力し、映画の多様性と実験精神を追求しました。さらに、『ラ・ガゼット・デュ・シネマ』誌への寄稿を通じて、左岸の二大シネクラブに関わり、映画批評の分野でも重要な役割を果たしました。1951年には、バザンらが創刊した『カイエ・デュ・シネマ』誌にも執筆者として参加しています。

映画監督としての活動

1953年には、アヌーク・エーメを主演に迎えた中編映画『恋ざんげ』を監督しました。この作品は、ルイ・ドゥリュック賞を受賞し、ヌーヴェルヴァーグの先駆けとなる作品として高く評価されました。その後も、『Les Mauvaises rencontres』(1955年)、『女の一生』(1958年)、『L'Éducation sentimentale』(1962年)など、数々の作品を監督しました。また、テレビ作品にも積極的に取り組み、その才能を多岐にわたり発揮しました。

後年の活動と業績

1994年には、長年の映画作品に対する貢献が認められ、アカデミー・フランセーズによって創設されたルネ・クレール賞を受賞しました。アストリュックは、2016年5月19日にパリで亡くなりましたが、彼の映画理論と作品は、今もなお多くの映画制作者や愛好家に影響を与え続けています。彼の提唱した「カメラ＝万年筆」理論は、映画を単なる娯楽ではなく、監督自身の思想や感情を表現する手段として捉えるという、現代映画の基本的な考え方を形作ったと言えるでしょう。

主なフィルモグラフィー

Aller et retour （短編、1948年）
恋ざんげ Le Rideau cramoisi （短編、1953年）
Les Mauvaises rencontres （1955年）
女の一生 Une vie （1958年）
La Proie pour l'ombre (Prey for the Shadows) （1961年）
L'Éducation sentimentale （1962年）
Le Puits et la pendule （テレビ短編、1964年）
Évariste Galois （短編、1965年）
La Longue marche （1966年）
わが祖国に栄光あれ Flammes sur l'Adriatique （1968年、日本ではテレビ放映のみ）
Les Grands détectives (テレビシリーズ、épisode La Lettre volée、1975年 ）
サルトル自身を語る Sartre par lui-même （ドキュメンタリー、1976年）
Louis XI ou La naissance d'un roi （テレビ、1978年）
Louis XI ou Le pouvoir central （テレビ、1979年）
À une voix près... ou La naissance de la IIIe république （テレビ、1980年）
Arsène Lupin joue et perd （連続テレビ、1980年）
Histoires extraordinaires （テレビシリーズ、épisode La chute de la maison Usher、1981年）
Une fille d'Ève （テレビ、1989年）
Albert Savarus （テレビ、1993年）

著書

Ciel de Cendres （1975年）

もう一度検索