侍 (小説)

遠藤周作の小説『侍』は、1980年に新潮社から単行本として刊行され、その後1986年には新潮文庫版も出版されました。この作品は、第33回野間文芸賞を受賞しており、遠藤文学の中でも重要な位置を占めています。

物語の舞台は、東北地方の小さな藩。主人公は、その藩に仕える下級武士です。藩主の命を受け、彼は通訳兼案内役の宣教師ベラスコと共に、異国への長い旅に出ます。この旅は、日本の外の世界、異なる文化や価値観との出会いを意味していました。この物語は、実際の歴史上の出来事、慶長遣欧使節をモデルにしており、主人公の旅は、支倉常長の生涯に重ねられています。また、作中に登場する野心的な宣教師ベラスコは、ルイス・ソテロがモデルとされています。

旅の過程で、主人公は西洋の文化や宗教、特にキリスト教に触れることになります。彼は、異文化の中で自身の価値観や信仰について深く考えるようになります。長い旅の末、日本に戻ってきた主人公を待ち受けていたのは、悲劇的な運命でした。形だけとはいえ、キリスト教に帰依したという理由で、彼は処刑されることになります。しかし、死を目前にした彼は、キリストへの真摯な信仰に目覚めていきます。この作品は、単なる歴史小説ではなく、人間の内面、信仰、そして運命といった普遍的なテーマを描き出しています。

『侍』は、遠藤周作の文学全集にも『死海のほとり』（1983年発表）と共に収録されています。

刊行一覧

『侍』、1980年4月発行（新潮社）
『侍』、1986年6月発行（新潮社〈新潮文庫〉）、ISBN 978-4-10-112325-7
『侍』、1987年7月発行（新潮社）、ISBN 4-1030-3516-1
『遠藤周作文学全集 第3巻 死海のほとり/侍』1999年7月（新潮社）、ISBN 978-4-10-640723-9

この作品は、遠藤周作の宗教観や人間観が色濃く反映された作品として、多くの読者に愛され続けています。歴史とフィクションが交錯する中で、人間の信仰や生きる意味を深く問いかける、読み応えのある作品です。

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