支倉常長

支倉常長：慶長遣欧使節と波乱の生涯

支倉常長（はせくら つねなが、1571年-1622年）は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した武将であり、伊達政宗の家臣でした。幼名は與市、初名は六右衛門長経、キリスト教洗礼名はドン・ヒリッポ・フランシスコ・ハセクラと、多様な名前で呼ばれていました。

常長は、1571年、山形県米沢市付近で生まれ、その後宮城県柴田郡で青年期を過ごしました。伊達政宗の家臣となり、文禄・慶長の役や葛西大崎一揆の鎮圧にも参加するなど、武勇にも秀でていました。

常長の生涯における最大の功績は、慶長遣欧使節の副使としてヨーロッパに渡航したことでしょう。この使節団派遣の背景には、スペインとの交流と、通商交渉という目的がありましたが、伊達政宗の倒幕計画に関わっていたという説もあります。

慶長17年（1612年）、常長はサン・セバスチャン号で出航しますが、暴風雨に見舞われ、遭難します。その後、新たなガレオン船サン・ファン・バウティスタ号を建造し、慶長18年（1613年）に再出航しました。この船の建造の迅速さから、遭難したサン・セバスチャン号を修理して再利用したのではないかという説もあります。

アカプルコへの上陸後、陸路と海路を組み合わせてスペインへ渡り、1615年にはスペイン国王フェリペ3世に謁見。マドリードで洗礼を受け、その後ローマへ。ローマ教皇パウルス5世への謁見を果たし、ローマ市議会から市民権と貴族の位を授与されるという、前代未聞の栄誉に浴しました。

しかし、常長のヨーロッパでの外交交渉は成功しませんでした。帰国時には既に日本国内ではキリスト教が禁じられており、交渉の目的である通商も叶わず、常長は失意のうちに帰国します。

帰国後、常長は2年後に亡くなりました。棄教したという説もありますが、宣教師ソテロの手紙には「敬虔のうちに死去」したと記されており、その死にはいまだ謎が残されています。

常長が持ち帰った『慶長遣欧使節関係資料』は、現在国宝に指定され、ユネスコ「世界の記憶」にも登録されています。この資料には、日本人を描いた最古級とされる常長の肖像画も含まれています。

常長が使用したという家紋については諸説ありますが、逆卍に違い矢斜め十字が有名です。一方、支倉家の家紋は「右卍」とされており、常長自身は「常長」を名乗っていなかった可能性も指摘されています。これは、後世の子孫がキリシタンであったことを隠すため、「長経」から「常長」に改めたという説に基づいています。

常長は日本とヨーロッパを結ぶ歴史的架け橋となった人物であり、その功績は今もなお、様々な形で語り継がれています。各地に建立された常長の銅像、シェリー酒「サン・フアン・バウティスタ」など、その足跡は様々な形で現代に受け継がれています。また、常長を題材にした小説、演劇、音楽作品なども数多く存在し、人々の関心を集め続けています。彼の生涯は、国際交流の歴史、宗教の弾圧、そして人間の運命を語る、ドラマチックな物語となっています。

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