侍補

侍補（じほ）の役職とその歴史的背景

侍補は、明治時代初期の宮内省に設置され、天皇を支援しその教育を行うための役職でした。この役職は、政治的な状況に応じて設立されたもので、特に明治天皇の君主としての育成と政治的な補佐を目的としていました。

発足の経緯

明治10年（1877年）8月29日、元田永孚の提案により、侍補が発足しました。この発足は、西南戦争後の行財政改革の一環であり、天皇をより近代的な君主として育成するための努力の一部とされました。最初の任命者には、徳大寺実則や吉井友実、土方久元などが名を連ね、全体で10名の侍補が任命されることとなりました。

特に、内務卿であった大久保利通は、明治天皇に対して一定の親政を期待しており、侍補が天皇に君徳を培養する役割を果たすことを目指していました。侍補たちは天皇に対して政治的な教育を施し、議論を重ねる中で、天皇の動向を政府に反映させようとしました。

内廷夜話の導入

侍補の具体的な活動の一環として、内廷夜話がありました。この日課は、夜7時から2時間、侍補が当番制で天皇と面談し、その日の出来事や相談事を通じて情報を共有するものでした。しかし、若い天皇が侍補の視点を通じて世界を理解する危険性も孕んでいました。このように、大久保と侍補らは相互に信頼関係を築きながら、天皇の意向を宮中から政府へと浸透させる構想を練っていました。

親政運動の転機

しかし、明治11年（1878年）5月早々に大久保が暗殺されると、侍補たちの構想は政府の方針に大きな影響を与えることになりました。侍補たちは、これを機に明治天皇に対して親政の実現を求める提言を行い、天皇の政治権能を強化することを要求しました。具体的には、天皇が閣議に参加し、侍補が閣議の内容を理解することを求めました。

しかしながら、これは宮中と政府の分離に反するものであり、政府からは否決されました。天皇は不満を抱えましたが、政府側はこれを軽視し、天皇の要望を無視する姿勢を取り続けました。これに伴い、侍補たちの立場も弱まり、次第にその影響力を失っていきました。

侍補の廃止

侍補の活動は、元田が侍補廃止について口にしたことにより、新たな局面を迎えました。この発言を受けて政府は、侍補廃止の決定を下し、明治11年10月13日、侍補は正式に廃止されました。この時点で、侍補たちの運動は政府に対して敗北を喫しましたが、廃止後の天皇は彼らに対して一定の配慮を示し、いつでも建言できる立場を与えることになりました。

廃止後の動向

侍補廃止後、元田は宮中に残ることとなりましたが、これ以降、元田や佐々木は再び親政の実現を目指して活動を始めました。彼らは、政府内の反対勢力と結びつき、「中正派」と呼ばれる政治グループを形成し、天皇の権限の拡大を図る運動を繰り広げました。

しかし、政治的変動と政権の交代により、中正派の運動は次第に下火となり、彼らが主導する形での親政の実現には至りませんでした。元田は教育分野での活動を通じて影響を残しましたが、それ以外の分野では彼らの存在感は薄れていき、最終的に明治時代の政治的な流れに飲まれることとなりました。

結論

侍補という役職は、明治時代における天皇と政治の関係の変化を象徴するものであり、その活動や運動は、近代日本における政治制度の形成において重要な役割を果たしました。天皇の親政を巡る争いと、それに伴う侍補の動向は、日本の近代史を理解する上で欠かせない要素となっています。

もう一度検索