依田和夫 (都市計画家)
依田 和夫（1933年～2001年）は、日本の都市計画分野において、行政官、事業推進者、教育者、そして研究者として多大な貢献をした人物です。神奈川県鎌倉町の出身で、戦後日本の都市づくり、特に大規模開発や交通計画の近代化に重要な役割を果たしました。
神奈川県立湘南高等学校を卒業後、東京大学工学部土木工学科に進学。卒業後、1957年に建設省に入省し、主に都市局でキャリアを積みました。行政官としての傍ら、学術的な探求にも熱心で、八十島義之助、鈴木忠義らが主宰した交通想話会に参加。ここで議論された交通計画の先端概念、例えばパーソントリップ調査やモーダルスプリットといった技術手法を行政分野に導入し、「大都市間交通計画」として制度化することに尽力しました。これは、20世紀後半における日本の都市計画技術を現代へと導く大きな原動力となった、特筆すべき業績です。
1966年には、ロンドン大学インペリアルカレッジで都市交通計画の研究のため1年間留学。帰国後は、広島都市圏や第1回東京都市圏におけるパーソントリップ調査の実施に中心的に関わりました。また、都市計画法の大規模な改正作業にも参画し、現代にも繋がる都市施設のあり方の基礎を構築。全国各地の都市計画調査に参加し、地方自治体の計画行政レベル向上にも貢献しました。
1976年には日本住宅公団（後の住宅・都市整備公団）へ移籍。ここでは大規模なニュータウン事業推進の最前線に立ちました。特に横浜のみなとみらい21（MM21）事業は、その構想段階から晩年に至るまで、依田氏がライフワークとして主導的に関わった巨大プロジェクトです。また、筑波研究学園都市の建設においては、担当在任中の2年間で都市施設の基本計画を立案・実行し、その基盤を固めました。1985年の国際科学技術博覧会開催に向けた土浦高架道路の建設にも尽力しています。
1978年に建設省へ戻った後は、都市交通調査室で街路事業調査の体系を確立。区画整理課長時代には、事業促進のための制度改善を推進しました。街路課長就任後には、沿道区画整理型街路事業制度を新設し、幹線道路沿いの環境問題と土地利用の更新を同時に進める手法を広めました。この時期、京都の山陰本線連続立体高架事業や、20年来の懸案であった北海道小樽臨港線事業を担当。小樽では、事業費の重点投入と共に、アーバンデザイナーとしての視点から周囲の景観と調和する道路を完成させ、現在の小樽の活性化の基礎を築きました。
1985年には大臣官房技術審議官に就任。後進の育成にも力を注ぎ、東京大学や東京工業大学で非常勤講師を務めるなど、教育活動にも熱心でした。1988年には東京大学より工学博士を授与され、同年に日本都市計画学会賞を受賞しています。
1987年には住宅・都市整備公団理事に再び就任し、宅地開発事業全般を監督するとともに、MM21事業の推進にさらに深く関わりました。
その後、財団法人計量計画研究所常任顧問を経て、1994年からは慶應義塾大学環境情報学部教授として、都市計画・交通計画分野の若手育成に情熱を傾けました。1995年には日本都市計画学会会長に就任し、学会の財政基盤強化などに尽力。日本交通計画協会の副会長も長く務め、運営にも深く関わりました。
依田氏と大学時代からの同僚であった伊藤滋氏は、彼を「スマートな東京っ子」「人を包み込む品の良さ」を持った人物と評しています。また、その能力については、「普通の役人にはない発想の豊かさ」と、その発想を現実の社会に落とし込む「なみなみならぬ行政的手腕」を兼ね備えていたと述懐しています。住都公団時代の筑波やMM21における貢献を振り返り、「本当のアーバンデザイナーであった」と実感したとも語っています。
都市開発における依田氏の哲学は、建設省時代の経験から垣間見えます。1968年頃、飛鳥田一雄横浜市長から首都高速道路の一部地下化を要求された際、交渉によって緑地帯と両立する半地下形式を実現しました。依田氏は後に、当時の行政が抱えていた理想と現実の葛藤に触れつつ、オイルショック後の「量から質へ」の転換期において、飛鳥田市政が時代の先を見据えていたことを評価。自身が後に小樽や京都で景観に配慮した都市デザインに取り組んだ経験と重ね合わせ、都市景観と開発の調和に対する強い意識を持っていたことが伺えます。
都心改創の構図―東京業務地区再生の論理（鹿島出版会）
都市圏 発展の構図―都市の競合・成長と交通インフラの役割（鹿島出版会）
交通工学ハンドブック（共著）
駅前広場・駐車場とターミナル（編著）
依田和夫氏は、日本の高度経済成長期から成熟期にかけて、都市計画・都市交通計画分野において、行政、事業、教育、研究、学会という多様な立場からリーダーシップを発揮しました。多くの大規模プロジェクトを成功に導き、制度設計や後進育成にも尽力したその功績は、現代日本の都市空間の形成に計り知れない影響を与えた、傑出した都市計画家として記憶されています。
経歴と業績
神奈川県立湘南高等学校を卒業後、東京大学工学部土木工学科に進学。卒業後、1957年に建設省に入省し、主に都市局でキャリアを積みました。行政官としての傍ら、学術的な探求にも熱心で、八十島義之助、鈴木忠義らが主宰した交通想話会に参加。ここで議論された交通計画の先端概念、例えばパーソントリップ調査やモーダルスプリットといった技術手法を行政分野に導入し、「大都市間交通計画」として制度化することに尽力しました。これは、20世紀後半における日本の都市計画技術を現代へと導く大きな原動力となった、特筆すべき業績です。
1966年には、ロンドン大学インペリアルカレッジで都市交通計画の研究のため1年間留学。帰国後は、広島都市圏や第1回東京都市圏におけるパーソントリップ調査の実施に中心的に関わりました。また、都市計画法の大規模な改正作業にも参画し、現代にも繋がる都市施設のあり方の基礎を構築。全国各地の都市計画調査に参加し、地方自治体の計画行政レベル向上にも貢献しました。
1976年には日本住宅公団（後の住宅・都市整備公団）へ移籍。ここでは大規模なニュータウン事業推進の最前線に立ちました。特に横浜のみなとみらい21（MM21）事業は、その構想段階から晩年に至るまで、依田氏がライフワークとして主導的に関わった巨大プロジェクトです。また、筑波研究学園都市の建設においては、担当在任中の2年間で都市施設の基本計画を立案・実行し、その基盤を固めました。1985年の国際科学技術博覧会開催に向けた土浦高架道路の建設にも尽力しています。
1978年に建設省へ戻った後は、都市交通調査室で街路事業調査の体系を確立。区画整理課長時代には、事業促進のための制度改善を推進しました。街路課長就任後には、沿道区画整理型街路事業制度を新設し、幹線道路沿いの環境問題と土地利用の更新を同時に進める手法を広めました。この時期、京都の山陰本線連続立体高架事業や、20年来の懸案であった北海道小樽臨港線事業を担当。小樽では、事業費の重点投入と共に、アーバンデザイナーとしての視点から周囲の景観と調和する道路を完成させ、現在の小樽の活性化の基礎を築きました。
1985年には大臣官房技術審議官に就任。後進の育成にも力を注ぎ、東京大学や東京工業大学で非常勤講師を務めるなど、教育活動にも熱心でした。1988年には東京大学より工学博士を授与され、同年に日本都市計画学会賞を受賞しています。
1987年には住宅・都市整備公団理事に再び就任し、宅地開発事業全般を監督するとともに、MM21事業の推進にさらに深く関わりました。
その後、財団法人計量計画研究所常任顧問を経て、1994年からは慶應義塾大学環境情報学部教授として、都市計画・交通計画分野の若手育成に情熱を傾けました。1995年には日本都市計画学会会長に就任し、学会の財政基盤強化などに尽力。日本交通計画協会の副会長も長く務め、運営にも深く関わりました。
人物像と哲学
依田氏と大学時代からの同僚であった伊藤滋氏は、彼を「スマートな東京っ子」「人を包み込む品の良さ」を持った人物と評しています。また、その能力については、「普通の役人にはない発想の豊かさ」と、その発想を現実の社会に落とし込む「なみなみならぬ行政的手腕」を兼ね備えていたと述懐しています。住都公団時代の筑波やMM21における貢献を振り返り、「本当のアーバンデザイナーであった」と実感したとも語っています。
都市開発における依田氏の哲学は、建設省時代の経験から垣間見えます。1968年頃、飛鳥田一雄横浜市長から首都高速道路の一部地下化を要求された際、交渉によって緑地帯と両立する半地下形式を実現しました。依田氏は後に、当時の行政が抱えていた理想と現実の葛藤に触れつつ、オイルショック後の「量から質へ」の転換期において、飛鳥田市政が時代の先を見据えていたことを評価。自身が後に小樽や京都で景観に配慮した都市デザインに取り組んだ経験と重ね合わせ、都市景観と開発の調和に対する強い意識を持っていたことが伺えます。
主な著書
都心改創の構図―東京業務地区再生の論理（鹿島出版会）
都市圏 発展の構図―都市の競合・成長と交通インフラの役割（鹿島出版会）
交通工学ハンドブック（共著）
駅前広場・駐車場とターミナル（編著）
依田和夫氏は、日本の高度経済成長期から成熟期にかけて、都市計画・都市交通計画分野において、行政、事業、教育、研究、学会という多様な立場からリーダーシップを発揮しました。多くの大規模プロジェクトを成功に導き、制度設計や後進育成にも尽力したその功績は、現代日本の都市空間の形成に計り知れない影響を与えた、傑出した都市計画家として記憶されています。
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