侵害反射

侵害反射（しんがいはんしゃ）

侵害反射は、体に痛みをもたらしたり、組織に損傷を与える可能性のある刺激（侵害刺激）が加わった際に、それを避けようとして生じる一連の体性反射を指します。これは生物が自身の身を守るための重要な防御機構の一つです。

概要

侵害刺激とは、例えば熱いものに触れる、鋭利なもので皮膚を切る、強い圧力を受けるといった、文字通り組織を侵害するような刺激のことです。これらの刺激は、皮膚や組織に存在する特別な感覚受容器、すなわち機械受容器、熱受容器、化学受容器、あるいは多種類の刺激に応答する多種類受容器によって感知されます。

受容された情報は、求心性神経線維として脊髄へと伝わります。この伝達には、比較的速く情報を伝えるAδ線維と、やや遅く情報を伝えるC線維が主に関与します。

脊髄に到達した信号は、直接運動神経に伝わるのではなく、介在神経細胞（インターニューロン）を介します。この介在神経細胞のネットワークによって、刺激を受けた側の肢では、屈筋を支配する運動神経が興奮し、伸筋を支配する運動神経が抑制されます。この連携した作用により、肢全体が体幹の方向へ曲がる（屈曲する）反射運動が起こります。これが「屈筋反射」と呼ばれるものです。

また、侵害刺激が非常に強い場合には、刺激側の肢の屈曲に加えて、体の反対側の肢が伸展するという反射も同時に生じることがあります。これは「交叉伸展反射」と呼ばれます。

脊髄に伝導された信号は、脳の視床を経て大脳皮質の体性感覚野にも送られます。この経路によって、私たちは「痛み」として刺激を知覚します。Aδ線維が伝える情報は比較的速く鋭い痛み（鋭痛、fast pain）として、C線維が伝える情報は遅く持続する痛み（鈍痛、slow pain）として感じられるとされます。さらに、侵害刺激は心拍数や血圧の変化といった自律性反射も引き起こすことがあります。

屈筋反射

屈筋反射は、皮膚などが侵害刺激を受けた際に、その肢を反射的に曲げて刺激源から遠ざける動きです。別名「屈曲反射（flexion reflex）」とも呼ばれます。

この反射に関わる求心性神経線維は、脊髄内で複数の介在神経細胞を介して（多シナプス性）、屈筋を動かす運動ニューロンを活性化させます。同時に、伸筋を動かす運動ニューロンを抑制するため、効果的に肢の屈曲が起こります。

刺激の強さによって、反射の範囲は異なります。弱い刺激では、刺激を受けた部位に近い関節の屈筋がわずかに収縮するだけですが、強い刺激では、複数の関節にわたる屈筋が大きく収縮し、肢全体が素早く屈曲します。これは、危険から素早く逃れるための「逃避反射」としての役割を果たしており、生体の生存にとって非常に重要です。

交叉伸展反射

交叉伸展反射は、侵害反射の中でも特殊な形態で、刺激を受けた側の肢が屈曲するのと同時に、体の反対側の肢が伸展する反射です。これは「脊髄自動反射」の一つとみなされます。

通常、健康な状態の成人では、この反射は上位脳からの抑制を受けているため、明確には現れません。しかし、脳や脊髄の上位中枢、特に運動指令を伝える錐体路に障害が生じた場合、この抑制が解除されて交叉伸展反射が顕著に現れることがあります。

例えば、片方の足の裏に刺激を与えた際に、刺激された側の足は引っ込めるように屈曲する一方、反対側の足が突っ張るように伸展する様子が観察されます。このような反応は、不完全な脊髄損傷など、神経系に特定の障害がある場合の指標となることがあります。

総じて、侵害反射は単純な反射 arc ではなく、脊髄内の複雑な神経ネットワークを介した、防御的かつ適応的な応答システムと言えます。

関連項目

レクセドの層

参考文献

『南山堂 医学大辞典』南山堂、2006年

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