便失禁

便失禁（Fecal incontinence）とは

便失禁（Fecal incontinence, FI）は、肛門失禁とも呼ばれ、自分の意思とは関係なく便が漏れてしまう状態を指します。これは、腸内のガス、下痢、粘液、固形物など、さまざまな排泄物が漏れることを含みます。便失禁は、特定の病気の診断名ではなく、あくまで症状を表す言葉です。その原因は多岐にわたり、便秘や下痢といった排便の異常が背景にあることもあります。

便失禁のメカニズムと原因

便失禁は、肛門の筋肉や神経の複雑なメカニズムが正常に機能しなくなることで起こります。通常、複数の要因が重なって発症することが多いです。

主な原因としては、以下のものが挙げられます。

出産による損傷: 出産時に肛門周辺の筋肉や神経が損傷を受け、後遺症として便失禁が起こることがあります。
直腸肛門手術の合併症: 過去に肛門や直腸の手術を受けた際、肛門括約筋や痔の血管クッションなどが損傷し、その結果として便失禁が起こることがあります。
排便習慣の変化: 過敏性腸症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎などの病気によって排便習慣が変わり、便失禁を引き起こすことがあります。
食物不耐性: 特定の食物に対して体が過剰に反応し、下痢を起こしやすくなり、その結果便失禁につながることがあります。
便秘: 慢性的な便秘が原因で、便が直腸に溜まりすぎて溢れ出てしまうことで便失禁を起こすことがあります（溢流性便失禁）。
受容的な肛門性交: 肛門周辺の組織が損傷し、便失禁の原因となることがあります。

成人における便失禁の有病率は約2.2％と推定されています。

社会的な影響と経済的コスト

便失禁は、身体的な問題だけでなく、社会生活にも大きな影響を与えます。この症状を持つ人は、周囲から嘲笑されたり、不当な扱いを受けたりすることがあります。特に高齢者にとっては、介護施設への入所理由の一つとなることもあります。

また、若い時期に便失禁を発症すると、結婚や就職が難しくなる傾向があります。そのため、多くの人が自分の状態を隠そうとし、家族や友人、医療関係者に相談することをためらう傾向にあります。このような状況は「沈黙の苦しみ」とも呼ばれています。

経済的な面では、医療費や仕事の生産性低下による損失が大きいです。例えば、オランダでは便失禁患者一人当たりの年間費用は2169ユーロであり、その半分以上が仕事の生産性低下によるものです。アメリカでは、1996年の一人当たりの生涯治療費は約17,166ドルとされています。括約筋形成術のような手術には、1手術あたり平均8555ドルかかります。

日本における便失禁

日本では、便失禁に関する言葉が非常に侮辱的な意味を持つことがあります。例えば、「クソッタレ」や「シッコタレ」という言葉は、相手を激しく罵倒する際に使われます。

最新の研究

近年、便失禁の治療法として、肛門括約筋の幹細胞を用いた再生医療の研究が進められています。この研究では、培養した幹細胞をマウスに移植したところ、新しい血管が発達し、筋肉の正常な収縮と弛緩が確認されました。将来的には、この技術が便失禁の治療に役立ち、人工肛門括約筋のような外科手術の必要性を減らすことが期待されています。

関連情報

屋外排泄
失禁

外部リンク

便失禁 - MSDマニュアル
小児の便失禁 - MSDマニュアル

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