保安元年の政変

保安元年の政変

保安元年の政変は、平安時代後期の保安元年11月12日（1120年12月4日）に発生した、白河法皇による関白・藤原忠実の勅勘処分と内覧職権停止事件です。この政変によって、忠実は事実上関白を罷免され、翌年には嫡男の忠通に関白を譲るという事態になりました。

背景

堀河天皇の急逝後、わずか5歳で即位した鳥羽天皇。当時の関白は藤原忠実でしたが、天皇の摂政の地位を巡り、天皇の伯父である藤原公実と対立します。白河法皇は、最終的に源俊明の進言と宮廷内での勢力関係から忠実を摂政に選びました。敗れた公実はその後急死し、法皇は公実の娘・璋子を養女とします。

院政を進める白河法皇にとって、摂政である藤原忠実は天皇とのパイプ役として期待されていました。しかし、忠実と皇室との血縁の薄さが課題となります。そこで、法皇は養女である璋子を忠実の嫡男・忠通の正室とし、忠実の娘・勲子を鳥羽天皇の后とする構想を立てました。この構想は、摂関家と皇室の関係強化、璋子の将来の安定、忠実の天皇外戚としての地位、忠通の将来の摂関の地位を確実にするという、関係者全員にとって利益のあるものになるはずでした。

しかし、忠実は璋子の奔放な噂を信じ、忠通との縁談を拒否、法皇の決定を破棄してしまいます。これに対し、白河法皇は璋子を入内させ、わずか1か月後には鳥羽天皇の中宮に立て、勲子の入内の約束を破棄しました。忠実は表立って抗議はしませんでしたが、璋子の儀式には非協力的な態度を取りました。

元永2年（1119年）、璋子は顕仁親王（後の崇徳天皇）を出産します。崇徳天皇の出生には、白河法皇と藤原璋子の密通による子であるという逸話も存在しますが、璋子が里帰り先として法皇の御所に帰るのも、法皇が外祖父として振る舞うのも当然であったという見方もあります。樋口健太郎は、璋子の入内の目的の一つに白河法皇と鳥羽天皇との間のパイプ役が期待されていたと指摘しています。璋子の存在は、これまで法皇と天皇のパイプ役を務めてきた忠実の立場を弱めていきました。

政変の勃発

一方、鳥羽天皇も成長するにつれて法皇からの自立を模索するようになり、白河法皇に止められていた勲子の入内の話が再浮上します。保安元年（1120年）10月3日、白河法皇が熊野御幸に出発した際、鳥羽天皇が忠実を召し出して娘の入内を命じたという噂を聞き、法皇は鳥羽殿に帰還後、忠実に真偽を問いただしました。

11月12日、法皇は璋子の里第である三条烏丸殿に入った直後、忠実に対する勅勘処分と内覧職権の停止を命じました。これは、璋子が天皇から娘の入内を求められた忠実が承知したことを法皇に訴え、忠実が虚言を述べていると激怒した法皇が忠実の罷免を決めたと推測されています。ただし、本当に虚言を述べたのが忠実だったのか璋子だったのかは不明です。

その後

この結果、関白は忠実から忠通に代わり、保安4年（1123年）には崇徳天皇が即位し、白河法皇は新天皇の外祖父となりました。忠通は白河法皇の指導の下に摂関としての経歴を重ねていくことになります。一方、藤原忠実の娘・泰子が鳥羽上皇の后として入内するのは、白河法皇の崩御後の長承2年（1133年）のことでした。

保安元年の政変は、皇室と摂関家の関係、そして法皇の権力構造が複雑に絡み合った事件であり、その後の政局にも大きな影響を与えました。

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