保安警察 (ドイツ)

保安警察（SiPo）：ナチス・ドイツの影の支配者

ナチス・ドイツにおいて、秘密警察組織「保安警察（Sicherheitspolizei、略称SiPo）」は、国民への恐怖政治を支える重要な役割を担いました。1936年に設立されたSiPoは、ゲシュタポ（秘密国家警察）とクリポ（刑事警察）を統合した組織であり、親衛隊全国指導者ハインリヒ・ヒムラーの指揮下に置かれ、その長官にはラインハルト・ハイドリヒが任命されました。ハイドリヒは同時に親衛隊保安部（SD）の長官も務め、ナチス政権における情報・治安活動を掌握しました。

SiPoの設立と組織構造

ヒムラーによる警察機構の改革は、ドイツ警察を保安警察（政治警察）と秩序警察（一般警察）に二分するものでした。SiPoは、政治的反対派の弾圧、ユダヤ人迫害、反体制勢力の監視といった、ナチス政権の維持に不可欠な役割を担いました。その組織構造は、長官であるハイドリヒの下、行政・法政局、政治警察局、刑事警察局などが設置され、各部門が連携して活動していました。行政・法政局長にはヴェルナー・ベスト、政治警察局長にはハイドリヒ自身、刑事警察局長にはアルトゥール・ネーベが就任しました。また、ゲシュタポ本部長にはハインリヒ・ミュラーが就き、国内政治警察の中核を担いました。

SiPoは、各軍管区に監察官を派遣し、地方組織の指揮を執らせました。さらに、ベルリンに保安警察幹部候補生学校を設立し、ゲシュタポや刑事警察、SDの幹部候補の育成にも力を入れました。これは、SiPoの組織強化と人材育成を目的としたものでした。

親衛隊との一体化と国家保安本部への統合

親衛隊と保安警察の一体化は、ナチス政権下で急速に進みました。1938年には、保安警察の警察官はすべて親衛隊員となることが義務づけられました。そして、1939年、SiPoとSDは統合され、親衛隊本部のひとつである国家保安本部（RSHA）へと改組されました。これにより、SiPoはRSHAの一部門として、その権限をさらに強化しました。

SiPoは秩序警察とは異なり、独自の制服を持たず、SD隊員の制服を着用していました。しかし、1941年にはRSHAの命令により、SiPoもSDの袖章を着用することとなりました。

SiPoの活動と役割

SiPoは、ナチス政権の維持に貢献しただけでなく、ユダヤ人絶滅政策（ホロコースト）などの残虐行為にも深く関わっていました。ゲシュタポは、政治的反対派やユダヤ人などの逮捕・拷問・殺害を行い、クリポは刑事事件の捜査やユダヤ人財産の押収などに関与していました。SiPoの活動は、ナチス・ドイツの犯罪行為の根幹をなしており、その残虐性は後世に大きな衝撃を与え続けています。

SiPoの終焉

第二次世界大戦の終結とともに、SiPoは解体されました。その残虐な活動は、戦後世界に大きな衝撃を与え、ナチス政権の犯罪性を改めて認識させることとなりました。SiPoは、ナチス・ドイツにおける恐怖政治の象徴として、現在も歴史に刻み込まれています。

参考文献

大野英二『ナチ親衛隊知識人の肖像』未来社、2001年
エドゥアルト・クランクショウ 著、渡辺修 訳『秘密警察―ヒトラー帝国の兇手』図書出版社、1972年
芝健介『武装親衛隊とジェノサイド』有志舎、2008年
ハインツ・ヘーネ 著、森亮一 訳『SSの歴史 髑髏の結社』フジ出版社、1981年
ハインツ・ヘーネ 著、森亮一 訳『SSの歴史 髑髏の結社 上』講談社学術文庫、2001年
ハインツ・ヘーネ 著、森亮一 訳『SSの歴史 髑髏の結社 下』講談社学術文庫、2001年
* 山下英一郎『制服の帝国 ナチスSSの組織と軍装』彩流社、2010年

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