保甲制度

保甲制度の概要

保甲制度（ほこうせいど）は、所有権や住民の共同体を基盤とする中国の行政機関の一種であり、特に宋代や秦代にその起源を持つとされています。この制度は、10戸を一つの「甲」とし、さらに10甲を「保」として編成され、階層的な構造を形成しました。主に地方の統治において重要な役割を果たし、地域住民の結束や相互監視を促進しました。

歴史的背景

この制度のルーツを辿ると、秦の商鞅による法に行き着きます。商鞅は、5戸を一つの「什五」に構成し、連帯責任を課すことで住民同士の監視体制を強化しました。やがて、宋代の王安石がこの枠組みを基に保甲制度を確立し、明代には王守仁がその発展に寄与しました。彼は「十家牌法」というものを導入し、「郷約」という内部規約によって、民衆への教育を意識した制度を整えました。

清朝における保甲制度

清朝において、保甲制度はさらに発展し、地域住民の思想や行動を監視する役割を担いました。この制度は、明代の里甲に基づいて創設され、租税の徴収だけでなく、人民の動向や反抗を防ぐための重要な仕組みとなりました。康熙帝はこの制度を「盗ヲ弥（とど）ムル良法ハ、保甲ニ如クハナ無シ」として重視し、制度の効力を高める施策を打ち出しました。また、保甲制度は、多くの少数民族や山間地域を含む広範囲に展開されました。

雍正4年には、各地域において「十戸に一牌頭を立て、十牌に一甲長を立て、十甲に一保正を立つ」といった細かな規定が設けられ、住民の管理態勢が強化されました。これにより、保甲の長には識字能力や家柄を持つ者が任命され、「士大夫が郷を治む」という原則が適用されました。

日本軍による影響

1937年に日本軍が盧溝橋事件を契機に日中全面戦争を開始すると、次第に中国の治安や政治体系にも影響を及ぼしました。日本軍は、その後の戦局を背景に上海を占領し、4年以上にわたって租界を管理しました。この時期、保甲制度は日本軍による民間管理施策の一環として復活し、人口統計の収集や戸籍の登録作業が行われました。結果として、約300万人に及ぶ住民が政府の管理下に置かれました。この制度は、イギリスやアメリカの租界でも適用され、保甲制度の枠組みが使用されることとなりました。

中華人民共和国での継承

中華人民共和国が成立した後、特に農村部では、保甲制度の伝統を継承した郷政府の設立が行われました。これは土地改革と並行して進められ、住民の自治を促進する新たな時代の基礎となりました。このように、保甲制度は、中国の法律や行政制度の変遷を通じて、その影響を持ち続けています。また、都市部での住民組織である「居民委員会」も、同様の行政体制の一部として機能し、保甲制度の流れを受け継いでいます。

参考文献

• - 張晋藩著、真田芳憲監修、何天貴・後藤武秀訳『中国法制史（上）』（1993年）中央大学出版会
• - 張晋藩著、真田芳憲監修、何天貴・後藤武秀訳『中国法制史（下）』（1995年）中央大学出版会
• - 劉建輝著『魔都上海　日本知識人の「近代」体験』（2010年）ちくま学芸文庫
• - 小口彦太・田中信行著『現代中国法（第2版）』（2012年）成文堂（第10章法と社会、執筆担当；田中信行）
• - 國谷知史・奥田進一・長友昭編集『確認中国法用語250WORDS』（2011年）成文堂（「居民委員会」の項、執筆担当；國谷知史）

もう一度検索