信仰の擁護者

信仰の擁護者とは

「信仰の擁護者」（Defender of the Faith）は、16世紀初頭からイングランド、そしてイギリスの君主が公式な称号の一部として用いてきた言葉です。この称号は、単に宗教的な意味合いだけでなく、君主の権威や役割を象徴する重要な要素となっています。

イギリスでの使用

歴史

「信仰の擁護者」という称号は、1521年にローマ教皇レオ10世が、当時のイングランド王ヘンリー8世に与えたのが始まりです。この称号は、ヘンリー8世が執筆した『七つの秘跡の擁護』という著作が、教会の教義を擁護するものであったことを評価して贈られました。

しかし、ヘンリー8世は後にローマ教会と決別し、自身をイングランド[[国教会]]の長とします。この決定により、教皇はヘンリー8世から称号を剥奪しましたが、イングランド議会は1544年にヘンリー8世とその後の後継者に、再びこの称号を授与しました。以降、この称号は、イギリス君主の正式な称号の一部となり、現在に至っています。ただし、カトリック教徒のメアリー1世は除きます。

スコットランド王ジェームズ5世も、1537年にローマ教皇から「信仰の擁護者」の称号を与えられましたが、これはスコットランド王がヘンリー8世と同じ道を歩まないようにとの願いが込められていました。

プロテクトレート時代には、オリバー・クロムウェルとその息子がこの称号を使用しませんでしたが、王政復古後に再び採用されました。

現代での使用

現在のイギリス国王チャールズ3世は、「チャールズ3世、神の恩寵による、グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国および他のレルムや領域の国王、コモンウェルスの長、信仰の擁護者」と称されています。これは、イギリス君主がイングランド[[国教会]]の長としての役割を担っていることを示しています。

この称号は、イギリスの硬貨にも略称で刻印されています。ただし、1849年に一時的に硬貨から省略されたことがありましたが、後に復活しました。

また、「信仰の擁護者」の称号は、イギリス連邦の国々では、必ずしも君主の正式な称号に含まれているわけではありません。例えば、オーストラリアではこの称号は使用されず、カナダとニュージーランド、イギリスでのみ使用されています。

カナダでは、君主が特定の宗教の擁護者ではなく、一般的な信仰の擁護者と見なされていることから、称号に含めることが選択されています。一方、硬貨には「神の恩寵による」という文言が使用されています。

一部の英連邦の国は、共和制国家になるまでこの称号を使用していました。しかし、パキスタンのように、国民の多数がムスリムであることから、この称号の使用を早くに停止した国もあります。

現在のチャールズ3世は、キリスト教以外の信仰にも理解を示しており、王太子時代から「信仰の擁護者」という称号の概念を、より広い意味での「信仰」の擁護へと変化させたいという意向を表明していました。

フランス語での使用

ハイチでは、1811年にアンリ1世が「信仰の擁護者」の称号を自身の正式な称号に加えました。また、カナダでは、フランス語版の称号が君主の正式な称号の一部として使用されています。

その他の例

1684年、ポーランド王ヤン3世ソビエスキは、ローマ教皇から「信仰の擁護者」の称号を与えられました。これは、オスマン帝国によるウィーン包囲を阻止した彼の功績を称えたものです。

また、エチオピア皇帝ハイレ・セラシエ1世も正式な称号に「信仰の擁護者」を有しており、マラーター王国の創始者シヴァージーは「ヒンドゥー教信仰の擁護者」と呼ばれていました。

まとめ

「信仰の擁護者」という称号は、単なる肩書きではなく、君主の権威と宗教的な役割を象徴する重要な要素です。その歴史的な変遷と現代における使用状況を理解することは、君主制と宗教の関係を深く理解する上で不可欠であると言えるでしょう。

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