シヴァージー

チャトラパティ・シヴァージー：マラーター王国の礎を築いた英雄

チャトラパティ・シヴァージー（1627年4月6日-1680年4月3日）は、インドの歴史に燦然と輝く英雄です。マラーター王国の創始者にして初代君主として知られ、デカン高原において、強大なムガル帝国やビジャープル王国といったイスラーム勢力に対抗し、ヒンドゥー王朝の復興に尽力しました。その生涯は、戦略と勇気、そして宗教的信念が複雑に絡み合った、壮大なドラマです。

幼少期とマラーターの結束

シヴァージーは、アフマドナガル王国のマラーター人将校、シャハージー・ボーンスレーの息子として、シヴネーリーで誕生しました。幼少期は、ムガル帝国とビジャープル王国のせめぎ合うデカン地方で過ごし、母ジジャー・バーイーからヒンドゥー教の叙事詩『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』を学びました。この教育は、彼の思想形成に大きな影響を与えたと考えられています。

彼は若き頃から冒険心に富み、コンカン地方を旅して回り、そこでマラーター人たちの結束を訴える彼の理念に共感する仲間たちを見つけました。やがて、ビジャープル王国から独立を目指し、知略と武勇を駆使して、次々と城塞を攻略し、コンカン地方の制圧を進めていきました。この行動は、ビジャープル王国との衝突を招き、父シャハージーは逮捕される事態にまで発展しますが、シヴァージーの独立への意志は揺らぎませんでした。

ビジャープル王国との戦い

ビジャープル王国の反撃は、2万を超える大軍を率いたアフザル・ハーンの派遣でした。シヴァージーは、プラタープガド城において、アフザル・ハーンを策略によって討ち取るという、大胆かつ決定的な勝利を収めます。この事件は、シヴァージーの名を広く知らしめ、その後のビジャープル王国との戦いで優位に立つ大きな転換点となりました。その後も幾多の戦闘を制し、コンカン地方におけるマラーター勢力の支配を確固たるものにしました。

ムガル帝国との激突

ビジャープル王国との戦いを経て、シヴァージーはムガル帝国を新たな敵と見なすようになりました。アウラングゼーブ率いるムガル帝国軍との戦いは、シヴァージーの優れた軍事戦略と機動的な軽騎兵戦術が光る、一進一退の攻防となりました。彼は、プネーに駐屯するシャーイスタ・ハーンへの奇襲攻撃を成功させ、ムガル帝国軍に大きな打撃を与えました。さらに、グジャラートのスーラトを襲撃し、莫大な戦利品を獲得するなど、その勢力は拡大の一途を辿ります。

しかし、ムガル帝国もただ手をこまねいていたわけではありません。アウラングゼーブは、名将ジャイ・シングを派遣し、シヴァージーを相手にしました。ジャイ・シングは、大軍による正面衝突を避け、巧みな包囲網を形成することでシヴァージーを追い詰めていきます。結果、プランダル条約により、シヴァージーはムガル帝国への臣従を認めざるを得ない状況に陥りました。

アウラングゼーブとの対立と逃亡

プランダル条約締結後、シヴァージーはアウラングゼーブに謁見するためアーグラに向かいます。しかし、アウラングゼーブの冷淡かつ侮辱的な扱いを受けたシヴァージーは、激怒して宮廷を離れ、事実上幽閉状態に置かれました。しかし、シヴァージーは、洗濯籠に隠れるという大胆な手段を用いてアーグラ城から脱出し、故郷へと戻ります。

マラーター王国の建国と晩年

逃亡後、シヴァージーは国内の改革に着手し、農業生産の向上や安定した税制の構築に力を注ぎました。また、ムガル帝国との関係修復を試みる一方、1674年、ラーイガド城で即位式を行い、マラーター王国の建国を宣言します。これは、3世紀ぶりにデカンに誕生したヒンドゥー王朝であり、その後のインドの歴史を大きく変える出来事となりました。その後も、ムガル帝国や周辺勢力との戦争を続け、領土拡大に努めました。しかし、晩年は赤痢を患い、1680年にラーイガド城で崩御しました。

シヴァージーの遺産

シヴァージーの死後、マラーター王国は、ムガル帝国との激戦を繰り広げることになります。しかし、彼の業績はインドの歴史に深く刻まれ、マハーラーシュトラ州を中心に、インドのナショナリズムの象徴として、現在もなお高く評価されています。ムンバイの国際空港や中央駅は彼の名にちなんで命名されており、巨大な像の建設も進められています。彼の生涯は、インドの独立と統一へ向けた闘争の重要な一章であり、そして、戦略家、指導者、そして宗教的信念を持つ一人の人間の物語として、後世に語り継がれるべきものです。

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