信濃 (空母)

軍艦信濃：大和型戦艦から巨大空母へ、そして10日間の生涯

日本海軍が建造した航空母艦「信濃」は、第二次世界大戦において建造された最大の航空母艦として知られています。その艦名は、旧国名である信濃国に由来しています。本稿では、信濃の艦歴、建造過程、そして悲劇的な沈没に至るまでの経緯を詳細に解説します。

大和型戦艦からの転身：建造開始から空母への設計変更

信濃の建造は、ワシントン海軍軍縮条約とロンドン海軍軍縮条約による制約を受けた日本海軍が、アメリカ海軍に対抗するため、46cm砲を搭載した大和型戦艦の建造計画から始まりました。大和、武蔵に続く3番艦として、1940年5月に横須賀海軍工廠で起工されました。

横須賀工廠には、大和型戦艦建造のために新たなドック（第6船渠）が建設されました。これは、大和型戦艦の巨大な船体と将来的な修理・改造工事を考慮したものでした。建造費用は約1億4770万円という巨額を要し、2年3ヶ月という歳月を費やして完成したドックで建造が始まりました。

しかし、1941年末の開戦と太平洋戦争の激化により、建造計画の見直しが行われ、潜水艦と航空機の生産が優先されるようになり、大型艦艇の建造は遅延し、信濃の姉妹艦である111号艦は建造中止、解体されました。

ミッドウェー海戦での痛烈な敗北により日本海軍は空母機動部隊の戦力を大幅に失いました。戦局の悪化に伴い、建造途上の信濃を空母に設計変更することが決定されました。戦艦としての建造を中止し、空母として再設計、改造に着手することになります。これは、すでに建造が進んでいた船体を活かすという、いわば「戦時急造空母」の形態をとったものでした。

空母への改造は、艦政本部、軍令部、航空本部員の間に様々な意見や構想の相違がありました。当初は「洋上の移動航空基地」というコンセプトで、攻撃機を搭載せず、防御に重点を置く案も検討されました。しかし、最終的には攻撃機も搭載し、強固な飛行甲板と装甲を備えた空母として設計変更されました。

改造にあたっては、工期短縮のため簡略化も図られました。居住区は最小限に抑えられ、水密試験も十分に行われず、完成度は低いままの竣工となりました。

短命の生涯：竣工から沈没まで

信濃は1944年11月19日に竣工しました。しかし、竣工からわずか10日後の11月29日未明、紀伊半島潮岬沖でアメリカ海軍の潜水艦アーチャーフィッシュの魚雷攻撃を受けました。4本の魚雷が命中し、浸水は止まらず、午前10時50分頃には転覆、沈没しました。

沈没の原因としては、建造の簡略化による防水作業の不備、乗組員の訓練不足、そしてアーチャーフィッシュによる的確な攻撃などが挙げられます。未完成の状態で出港し、十分な訓練を受けていない乗組員は、被雷後の混乱の中で有効な応急処置を講じる事が出来ませんでした。

アーチャーフィッシュは、信濃の防御設計を巧みに利用し、浅い深度に設定された魚雷によって空母の重心点を攻撃し、転覆させました。

信濃の設計と特徴

信濃は、大和型戦艦を母体として建造された空母であるため、空母としては異例なほど堅牢な防御力を備えていました。飛行甲板は500kg爆弾の急降下爆撃に耐える設計になっており、舷側装甲も巡洋艦の砲撃に耐えるレベルでした。

しかし、搭載機の数は、他の空母と比較して少なめでした。これは、設計変更と工期短縮によって格納庫の面積が狭くなったことなどが要因でした。

信濃の飛行甲板は、非常に広く、着艦も容易だったと伝えられています。装甲飛行甲板は、ミッドウェー海戦での教訓を踏まえて設計されたものでした。

信濃は、その巨大さゆえに、艦内は複雑で迷路のような構造になっていました。乗組員は艦内の構造に不慣れであり、被雷後の混乱に拍車をかけました。

そして歴史に

信濃の沈没は、日本海軍にとって大きな損失であり、太平洋戦争終戦へと向かう過程において、象徴的な出来事となりました。その短く悲劇的な生涯は、戦争のむごさと、技術力の限界、そして人為的なミスがもたらす悲劇を改めて私たちに突きつけるものです。現在では、その巨大な艦影は海底に眠り、歴史の証として語り継がれています。

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