信越本線熊ノ平駅列車脱線事故

事故の概要

1918年（大正7年）3月7日、信越本線の熊ノ平駅構内で、下り貨物列車が脱線・大破する事故が発生しました。この事故で、乗務員と駅員合わせて4名が死亡、4名が重軽傷を負うという痛ましい結果となりました。

事故を起こした貨物列車は、碓氷峠の急勾配区間を走行するための特殊な構造を持つ機関車が牽引していました。この区間は、通常の鉄道路線とは異なり、アプト式ラックレールという特殊なレールを使用しており、機関車にはラックレールと噛み合う歯車が搭載されていました。

事故発生の経緯

事故当日、下り貨物第191列車は、熊ノ平駅を25分遅れて出発しました。列車は2両の機関車（重連）と10両の貨車、1両の有蓋緩急車で構成され、合計7名の乗務員が乗車していました。

出発後まもなく、本務機関車の主電動機から異臭が発生し、さらに異音と火花を伴う発煙が生じました。機関手は、ただちにブレーキ操作を行いましたが、異常は収まらず、列車は緊急停止しました。

点検の結果、主電動機の継ぎ手に故障が見つかりました。しかし、他の異常は確認されなかったため、機関手は粘着運転による運行継続を決断しました。この時、補助機関車には異常はなかったため、補助機関車の機関助手に運行継続を伝えました。

ところが、その直後、列車は突然逆走を開始しました。逆走速度は時速32km以上にも達し、本務機関車と補助機関車の乗務員は、手ブレーキや発電ブレーキを操作しましたが、速度は増すばかりでした。

最終的に、列車は熊ノ平駅の側線に突入し、車止めを突破して岩壁に激突しました。この衝撃で、貨車は木っ端微塵に破壊され、機関車も大破しました。

事故の原因

事故の直接的な原因は、補助機関車の主電動機に発生した故障です。逆走直前、補助機関車の機関手は主幹制御器を操作しましたが、何らかの原因で電流が流れず、列車は逆走を始めました。その後、発電ブレーキを操作しましたが、主電動機の内部が破損したためブレーキは使用不能となりました。また、本務機側の電動機故障も事故を誘発する要因となりました。

本務機関車の乗務員は、列車の停止位置が上り勾配であったため、逆走は一時的なものと判断し、ブレーキを緩めていました。しかし、急勾配での逆走は、彼らの予想をはるかに超えるスピードで加速し、対応が間に合いませんでした。また、両機関車の手用帯ブレーキ周辺が潤滑油で汚損していたことも、ブレーキの効きを悪化させ、事故の被害を拡大させました。

事故の教訓

信越本線熊ノ平駅列車脱線事故は、車両の不具合が重大事故につながることを示した悲劇的な事例です。また、碓氷峠のような特殊な環境下での鉄道運行においては、より高度な安全対策が不可欠であることも浮き彫りにしました。この事故を教訓に、鉄道の安全運行に関する技術や対策が大きく見直されることとなりました。

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