個人タクシー事件

個人タクシー事件

個人タクシー事件とは、個人タクシー事業の免許申請を巡り、行政庁の審査手続きの不当性が争われた裁判の判例です。この裁判は、行政手続きにおける公正さの確保という観点から重要な意味を持ちます。

事件の背景

1959年、運輸省東京陸運局は個人タクシーの増車を決定し、免許申請者を募集しました。多数の申請者の中から、洋品店経営者のXもその一人でした。しかし、東京陸運局は、審査基準を十分に公開しないまま、Xの申請を却下しました。この決定に対し、Xは行政処分の取り消しを求めて訴訟を起こしました。

裁判の経緯

東京地裁の判決

1963年、東京地裁は、東京陸運局の審査手続きに違法性があると判断しました。裁判所は、審査基準が申請者に事前に知らされておらず、弁明の機会が与えられなかった点を問題視しました。

東京高裁の判決

1965年、東京高裁も一審判決を支持し、東京陸運局の控訴を棄却しました。裁判所は、審査基準を公表する必要はないものの、基準を適用する上で必要な事項については、申請者に告知し、主張・立証の機会を与えるべきだとしました。Xの場合、却下理由となった2項目について、適切な聴聞が行われていなかったと指摘しました。

最高裁の判決

1971年、最高裁は、一、二審判決を支持し、東京陸運局の上告を棄却しました。最高裁は、個人タクシー免許の許否が個人の職業選択の自由に関わることを指摘し、行政庁は独断的な認定を疑われるような不公正な手続きをとってはならないとしました。特に、基準の内容が微妙で高度な事実認定を必要とする場合には、申請者に主張と証拠提出の機会を与えるべきであるとしました。

裁判のポイント

この裁判の重要なポイントは、以下の点です。

審査基準の不明確性: 行政庁は、審査基準を内部的に設けるだけでなく、申請者に対してその内容を明確に伝える必要があります。
弁明の機会の保障: 申請者には、自己の主張を述べ、証拠を提出する機会が保障されるべきです。特に、却下理由となる可能性のある事項については、十分な聴聞を行う必要があります。
行政手続きの公正性: 行政庁は、恣意的な判断を避け、手続きの公正性を確保する責任があります。

判決の意義

個人タクシー事件は、行政手続きにおける公正さの重要性を示した重要な判例です。行政庁は、国民の権利や自由に関わる決定を行う際には、透明性の高い手続きを守る必要があります。この判例は、行政手続法をはじめとする関連法規の整備に大きな影響を与えました。

参考文献

戸松秀典、初宿正典 編『憲法判例』（第8版）有斐閣、2018年4月。

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