個別受注生産

個別受注生産とは

個別受注生産は、製造業における生産方式の一つで、顧客からの注文を受けてから製品の設計を行い、製造を開始する形態を指します。この方式の最大の特徴は、製品の部品在庫をほとんど持たないことです。受注設計生産（ETO：Engineer to Order）や個別設計生産も、ほぼ同義として扱われます。また、受注生産（MTO：Make to Order）や受注組立生産も関連する用語として挙げられます。個別受注生産は、略して個別生産、または個産と呼ばれることもあります。

個別受注生産は、見込生産（Make to Stock）や大量生産、多品種少量生産といった他の製造手法とは対照的な位置づけにあります。

個別受注生産の概要

個別受注生産は、量産前の準備段階として、生産設備（治具や金型）、試作品などを製作する部門（工機）や、金型メーカー、試作品メーカー、専用機メーカー、重工業メーカー、プラントメーカーなどで採用されています。また、一般的には製造業に含まれない建設業も、個別受注生産を行う業態の一つです。

個別受注生産では、受注時の設計どおりに製品が完成しないことが多く、最終工程近くで補正や修正といった作業が発生します。これは、トライアンドエラーを繰り返しながら、徐々に製品を完成形に近づけていくという製造手法の特徴です。

契約形態においては、個別受注生産の場合、売買契約と請負契約が混合した形になりますが、請負契約の性質が強くなります。具体的には、注文者の指示に基づき、製作者の労務によって工作物を建設したり、製作者の材料を用いて注文者の設計・指示に従って物品を製作する契約形態が、印紙税法上の請負契約として扱われます。

個別受注生産の問題点

個別受注生産では、受注前後や製作途中で、仕様変更、製作方法の見直し、製造上の不具合などによって作業変更が頻繁に発生します。特に、製造期間が長期にわたるプラント設備などでは、研究開発部門や設計部門による改善やコストダウンのための仕様変更・設計変更が日常的に行われ、それによって作業手順や工数が変動します。

また、量産準備工程においては、量産部門からの補修品の緊急オーダーに対応する必要が生じることがあります。これらの緊急オーダーは、量産ラインを止めるわけにはいかないため、工機部門では迅速な対応が求められ、現場が常に混乱した状態に陥ることがあります。

さらに、個別受注生産では、受注時にすべての仕様が決定するわけではないため、受注後に仕様承認や図面の客先承認といった作業が発生し、納期に大きな影響を与えることがあります。

受注生産との違い

個別受注生産と受注生産の主な違いは、個別受注生産が受注後に開発・設計を行うのに対し、受注生産は受注前の段階で開発・設計が完了している場合がある点です。受注生産では、顧客から提供された設計図やCADデータに基づいて生産が行われますが、個別受注生産では、顧客からの製品仕様をもとに開発・設計を行いながら生産を進めます。

個別受注生産の生産管理の問題点

個別受注生産における生産管理は、受注後の開発・設計を伴いながら生産を進めるという特徴があります。一般的な生産管理は、見込生産や大量生産を前提としていることが多く、個別受注生産に特化した生産管理手法は確立されていません。個別受注生産では、受注後に開発・設計を行うため、生産管理の基本となるBOM（部品表）を事前に準備することが困難です。また、工程管理に必要なBOP（製造）のようなプロセスフローや工程計画も事前に準備できない場合があり、生産管理全体を複雑化させています。

一般的なBOMでは、部品ごとのプロセスを定義できますが、部品間のプロセス依存関係を表現することはできません。個別受注生産では、量産を前提としないため、プロセスフローが複雑になりやすく、資材所要量計画に基づいたBOMでは対応できない場合があります。このような理由から、一般的な生産管理システムの適用が難しいのが現状です。

システム例

個別受注生産に特化したシステムも登場しており、以下のようなものが挙げられます。

DIRECTOR6（https://director-scheduler.jp/）
rBOM（https://www.daikodenshi.jp/daiko-plus/production-control-rbom/）
EXPLANNER/J（https://jpn.nec.com/soft/explanner/explanner-j/）
Biz∫SCAW製番管理システム（https://www.biz-integral.com/solution/scaw-seiban/）

これらのシステムは、個別受注生産における複雑な生産管理を支援し、業務効率化に貢献します。

参考資料

伊藤昭仁『プラントエンジニア　個別受注設計生産の工程管理を見える化しモノの流れをつくる』2012 第44巻　第7号公益社団法人日本プラントメンテナンス協会
伊藤昭仁『月間自動認識　個別受注設計生産における見える化のしくみ』2007 第20巻　第5号日本工業出版

外部リンク

PSLXフォーラム
ものづくりAPS推進機構

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