倍全音符

倍全音符（ブレーベ）

倍全音符（ばいぜんおんぷ）は、二全音符（にぜんおんぷ）またはブレーベ（英語: double whole note, breve）とも呼ばれ、西洋音楽の楽譜に用いられる音符の中で、全音符のちょうど2倍にあたる長さを持つものです。現代の音楽記譜法においては、最も長い音価である全音符に次いで、2番目に長い音価として扱われています。

歴史的背景

この音符の起源は、中世の定量記譜法に用いられていた「ブレービス（brevis）」という音符にあります。当時のブレービスは、「短い（brief）」を意味するラテン語の語根からその名が示す通り、利用可能な音符の中では比較的短い音価の一つでした。中世の音楽理論では、ブレービスの長さは、より長い音符である「ロンガ（longa）」との相対的な比率で定められており、「完全な」モードではロンガの3分の1、「不完全な」モードではロンガの2分の1の長さに相当しました。時代とともに音楽の慣習やテンポ感が変化する中で、かつて「短い」と称されたブレービスは、現代においては相対的に極めて長い音価を持つ音符として認識されるようになったのです。

現代の記譜と形状

現代の楽譜において、倍全音符は主に二種類の視覚的な形で表現されます。一つは、全音符と同様の中空の楕円形をした符頭に、左右どちらか一方、または両側に垂直な短い線が付加されたデザインです。もう一つは、より古い時代の記譜法で時折見られる、横長の長方形のような形状です。これらどちらの形も、全音符の2倍という同じ音価を示しています。

現代における使用状況

倍全音符は、現代の楽曲において一般的な拍子記号、例えば4/4拍子などで通常定められている一小節の長さよりも長くなることが多いため、比較的珍しい音符とされています。一小節が全音符以下の音価で構成されることが主流であるため、現代の音楽では使用頻度が低い傾向にあります。ただし、イギリスの音楽においては、2分音符が一拍の単位とされる拍子記号（特にAlla breveである2/2拍子）が比較的よく用いられるため、そのような文脈では倍全音符が一小節に収まる形で使われることがあります。

関連記号：倍全休符

倍全音符に対応する記号として、同等の時間だけ演奏を休止する指示を示す倍全休符（ばいぜんきゅうふ）、または二全休（止）符（にぜんきゅう（し）ふ）が存在します。これは、倍全音符と同様に全音符二つ分の長さの無音を表します。視覚的には、五線譜の上から2番目の線と3番目の線の間の空間全体を占める長方形で表されるのが一般的です。この休符は、特に楽譜上で長い無音部分を示す際に、小節ごとに休符を分割せず、複数小節分（例えば2小節分）をまとめて示すために用いられることがあります。倍全休符や、それよりもさらに長い休止を示す休符は、「倍数休符（multiple rest）」と総称される場合があります。

関連用語：Alla breve

拍子記号の一つである「Alla breve（アラ・ブレーヴェ）」は、その名称を倍全音符（breve）の音価に由来しています。Alla breveは通常2/2拍子で示され、これは2分音符を単位とする拍子が1小節に二つあることを意味します。ルネサンス期の定量記譜法においては、これは「プロポルツィオ・ドゥプラ（proportio dupla）」と呼ばれる音価の比率変化を示す用語の代わりとしても使われ、ブレービス（brevis）が本来の半分の長さであるセミブレービス（semibrevis）ではなく、時間の基準単位（タクトゥス、tactus）とみなされるようになることを意味していました。現代の記譜法では、Alla breveの拍子記号（アルファベットのCに縦線が入った記号）は、通常よりも音符の相対的な長さが短く解釈され、特に全音符が2拍分として扱われることを示唆します。この拍子記号はしばしば速いテンポの楽曲に用いられ、4/4拍子と比較すると、1小節を4分音符4つで捉えるのではなく、2分音符2つで捉える感覚で演奏される傾向があります。

関連項目

* 演奏記号

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