全音符

全音符とは

全音符（ぜんおんぷ）は、西洋音楽の楽譜で使用される音符の中で、最も基本的な音価の一つです。その名前が示す通り、しばしば一小節全体の長さを表す基準となります。特に4分の4拍子においては、全音符一つで一小節の全ての拍、すなわち4拍分の長さを持つことになります。

記譜法と特徴

全音符は視覚的に非常にシンプルです。二分音符などと同様に、輪郭だけが描かれた楕円形の「符頭（ふとう）」を持ちますが、そこから伸びる「符幹（ふかん）」はありません。この独特の形状が全音符を見分ける特徴です。

音楽において、他の音符の長さはしばしば全音符を基準にして定められます。例えば、倍全音符は全音符の2倍の長さ、二分音符は全音符の半分（2分の1）、四分音符は全音符の4分の1の長さに相当します。このように、全音符は音価体系における基本的な尺度としての役割を果たします。

全休符について

全音符に対応する休止を表す記号に「全休符（ぜんきゅうふ）」があります。これは、一般的にはその拍子にかかわらず、一小節全体を休止することを示すために使われます。しかし、3分の2拍子や4分の5拍子のような拍子の長い小節においては、全音符と同じ時間（例えば3分の2拍子なら2拍分、4分の5拍子なら4拍分）の休止を表す場合もあります。小節全体を休止する場合の全休符は通常小節の中央に記されますが、全音符と同じ長さの休止を示す場合は、特定の音符の位置に合わせて記されることがあります。

全休符は、五線譜の第二線（上から2番目の線）の下に置かれる黒い長方形で表されるのが標準的です。しかし、複数の声部（パート）が同時に記される複雑な楽譜では、線譜上の別の位置や、加線を用いて記されることもあります。これは、例えば二つの楽器や声楽パートが一つの五線譜に書かれており、片方のパートだけが一時的に休止する場合などに用いられます。

特殊な用法

アングリカン・チャントのような、厳格な拍子に縛られない自由なリズムの楽曲では、全音符や全休符が拍子記号に関係なく、単に「一小節全体」を表すシンボルとして用いられることがあります。このような用法は、他の形式の音楽にも適用される場合があります。

歴史的背景

全音符の概念は、13世紀後半の楽譜にその原型を見ることができます。これは、当時の音楽記譜法である定量記譜法における「semibrevis」（丸い符頭のみで符幹がない音符）に由来しており、これが後にイギリス英語での名称「semibreve」の語源となりました。

各国での名称と由来

全音符はその見た目や役割に基づいて様々な言語で呼ばれています。イギリス英語の「semibreve」は、イタリア語の同名の言葉に由来し、さらに遡るとラテン語の「semi」（半分）と「brevis」（短い）が語源とされています。定量記譜法におけるsemibrevisが、当時の主要な音符より「短い」ものとして認識されていた名残と考えられます。

一方、アメリカ英語の「whole note」は、ドイツ語の「ganze Note」（ganzeは「全部の」、Noteは「音符」）という名称を翻訳借用したものです。これは、しばしば一小節「全部」の長さを表すことに由来しています。

カタルーニャ語の「rodona」、フランス語の「ronde」、スペイン語の「redonda」など、いくつかの言語では、その丸い形から名前がつけられています。

また、ギリシア語では「全部」を意味する言葉が使われ、中国語、日本語、韓国語、ベトナム語といった東アジアの言語では、「全部の音符」という意味合いの名前がつけられています。

関連事項

音楽記号全般や、音符の長さを変更する付点などの「演奏記号」と関連して理解を深めることができます。

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