停止 (爵位)

爵位の停止と休止：イギリス貴族制度の複雑な側面

イギリスの爵位制度には、継承が一時的に中断される「停止」と「休止」という二つの状態が存在します。これらは、爵位の継承権を持つ者が複数存在する場合や、継承権者の存在が不確かな場合に発生します。本稿では、これらの状態について詳しく解説します。

爵位の停止

概要

ヨーロッパ大陸では一般的に爵位は兄弟全員が継承できますが、イギリスでは原則として一人のみが爵位を相続します。爵位は終身制であり、生前の譲渡は認められていません。爵位保有者が亡くなった際には、定められた継承方法に従って爵位が承継されます。

多くの場合、爵位の継承は「初代の直系の嫡出の男系男子」と定められていますが、例外も存在します。特に、議会召集令状によって創設された古いイングランド貴族の男爵位では、継承方法が明確に定められていないことがありました。そのため、男子相続人がいない場合、女子が相続することになります。複数の女子が相続権を持つ場合、優劣がつけられないため、爵位は「停止」状態となります。この状態は、特に議会召集令状による男爵位に多く見られます。

スコットランド貴族では、男子相続人がいない場合、女子が継承することができ、姉妹がいる場合は長女が優先されるのが一般的でした。

停止状態の終了

停止状態は、共同相続人が死亡するなどして最終的に相続人が一人になった場合に終了します。しかし、男子が現れない限り、潜在的な相続人の数は増え続けるため、複雑化する場合があります。

共同相続人は、国王に停止状態の解除を請願することができます。国王はこれを許可できますが、申請者の血統に疑義がある場合、権限委員会に委ねられます。委員会は、共謀の証拠、停止状態が1世紀を超える、または申請者が権利の3分の1未満しか保有しない場合を除き、裁定を行います。

この原則は17世紀に確立されましたが、現在ではそれ以前の事例にも適用されています。ただし、必ずしもこの原則通りに解決するとは限りません。例えば、第8代デ・ラ・ウェア男爵の事例では、複数の息子がいましたが、爵位は次男の娘の間で停止状態となり、後に解決したものの、三男の孫が優先権を主張するという複雑な経緯をたどりました。

1604年には、ル・ディスペンサー男爵の事例が初めて「解消」された「停止」となりました。その後、イングランド王政復古の際に再び解消事例が発生しました。多くの「停止」は、家族の同意を得て数年以内に解決しています。

しかし、爵位が「停止」のまま数世紀にわたり残ることもあります。コッドノアのグレイ男爵位は490年以上、ヘースティングズ男爵位は299年間も停止状態でした。男爵位よりも高位の爵位でも停止状態となった例があり、アーリントン伯爵位とセットフォード子爵位、クロマーティ伯爵位などが挙げられます。

爵位の停止状態が長期間に及ぶ場合、その権利を主張することは容易ではありません。1927年には、議会の特別委員会が、「停止」が100年を超える場合や、申請者の権利が3分の1以下の場合には、請願を検討すべきではないという提言を行いました。

停止状態が終了した男爵位の例

以下に、停止状態が終了した男爵位の例をいくつか示します。

カモイズ男爵：1426年停止、1839年終了（413年後）
クロムウェル男爵：1454年停止、1490年終了、1497年停止、1923年終了
モウブレー男爵：1481年ごろ停止、1483年終了、1777年再度停止、1877年終了
コッドノアのグレイ男爵：1496年停止、1989年終了（493年後）
ド・ルース男爵：1508年停止、4年後に終了、1687年停止、1806年終了、1939年停止、1943年終了、1956年停止、1958年終了
ヘースティングズ男爵：1542年停止、1841年終了（299年後）
ブレイ男爵：1557年停止、1839年終了、1862年停止、1879年終了
ストラボギー男爵：1600年ごろ停止、1916年終了
ハワード・ド・ウォルデン男爵：1688年停止、1784年終了、1797年停止、1799年終了、1999年停止、2004年終了

爵位の休止

概要

爵位の「休止」とは、爵位を継承すべき男子が存在する可能性はあるものの未確定、あるいはその権利保持者が爵位回復の請願を行っていない状況を指します。この場合、爵位は「廃絶」とはみなされず、「休止」と表現されます。そのため、回復の可能性があった男子全員の死亡が確認された時点で、爵位は「廃絶」となります。「停止」とは異なり、継承権者の存在が不確かな状態が「休止」の特徴です。

休止された爵位・準男爵位の例

以下に、休止された爵位と準男爵位の例をいくつか示します。

オックスフォード伯爵：1141年創設、1703年休止
オーモンド伯爵：1328年創設、1997年休止
カークブリー卿：1633年創設、1832年休止
キンロス卿：1602年創設、1747年休止、1868年継続確認、2019年現在に至る
クリントン男爵：1298年創設、1692年停止、1721年解除、1751年停止、1760年解除、1791年休止、1794年継続確認、1957年停止、1965年解除、2019年現在に至る
クロフォード伯爵：1398年創設、1808年休止、1848年継承者確認
テンプル準男爵：1611年創設、1786年休止
アラン伯爵：1503年創設、1651年休止、1661年再交付
シンクレア卿：1449年創設、1674年休止、1677年継承規定改訂
ミルタウン伯爵：1763年創設、1891年休止
モイニハン男爵：1929年創設、1991年休止、1997年相続権者決定

これらの例を通して、爵位制度における「停止」と「休止」の複雑さをご理解いただけたかと思います。これらの状態は、イギリスの歴史と深く結びついており、その解明には詳細な調査と理解が必要です。

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