健御名方富命彦神別神社

健御名方富命彦神別神社（たけみなかたとみのみことひこかみわけじんじゃ）とは

『延喜式』神名帳に「健御名方富命彦神別神社 名神大」と記載される古社で、信濃国水内郡に鎮座したとされています。しかし、その後の所在が不明となり、現在では3つの神社が論社として比定されています。いずれの神社も、それぞれ異なる歴史と祭神解釈を持ち、この神社を巡る謎を深めています。

概要

健御名方富命彦神別神社は、『延喜式』に記された名神大社でありながら、その正確な場所が失われてしまいました。現在、以下の3社が有力な候補として挙げられていますが、決定的な結論は出ていません。

1. 健御名方富命彦神別神社（長野市）: 長野市街の城山に位置し、通称「水内大社」または「城山県社」と呼ばれています。旧県社であり、地域の人々に崇敬されています。
2. 健御名方冨命彦神別神社（信州新町）: 長野市信州新町にあり、通称「水内神社」または「水内大社」として知られています。こちらは旧郷社であり、地元密着型の神社です。
3. 健御名方富命彦神別神社（飯山市）: 飯山市に鎮座し、通称「五束神社」と呼ばれています。旧県社であり、飯山盆地の歴史を語る神社です。

文献によると、持統天皇5年（691年）に信濃国で「水内神」が祀られた記録があり、これが文献上の初見とされています。『延喜式』神名帳には「水内神」の記載はありませんが、水内郡で唯一の大社であることから、健御名方富命彦神別神社がこの「水内神」に該当すると考えられています。

祭神

社名が示す通り、祭神は「健御名方富命彦神別神」とされていますが、その解釈は各論社で異なっています。

建御名方命同神説: 諏訪大社の祭神である「建御名方命」と同一の神とする説。
建御名方命の御子神説: 「健御名方富命」に「彦神別」が加わったことから、建御名方命の御子神とする説。諏訪大社下社摂社の若宮社では「建御名方彦神別命」として祀られています。
「健御名方富命」と「彦神別神」の二神説: 「健御名方富命彦神別神」を二柱の神とし、「健御名方富命」は建御名方命、「彦神別神」はその御子神と解釈する説（妻科神社など）。

各論社の特徴

1. 長野市の健御名方富命彦神別神社: かつては善光寺境内に位置し、「年神堂八幡宮」と呼ばれていました。『諏方大明神画詞』には、年神堂が諏訪大社の分座であり、持統天皇5年の「水内神」であると記されています。また、『芋井三宝記』には、この神社が本来は健御名方富命彦神別神社であり、善光寺の建立によって仏式化し、八幡宮と誤って呼ばれるようになったと記されています。この地は科野国造・金刺氏の本拠地であり、水内郡の中心地であったと考えられています。また、善光寺平を一望できることから、古社の所在地として相応しいとされています。

2. 信州新町の健御名方冨命彦神別神社: 現在も地名に残る「水内」に鎮座し、「水内神」とも呼ばれていました。主祭神は彦神別命で、建御名方神の御子神として祀られています。

3. 飯山市の健御名方富命彦神別神社: 飯山盆地の端に位置し、古くは「水内海」と呼ばれた湖があった場所に建てられています。祭神は健御名方富命のほかに、庭津女命、麻背命、八須良雄命、知奴命、沙南豆良姫命、武彦根命など、独特の神々（彦神別命の御子神とされる）が祀られています。これらの神々は、この地域を支配した氏族との関連が深いと考えられています。

まとめ

健御名方富命彦神別神社は、所在不明の謎に包まれた古社でありながら、その歴史と信仰は各論社に今も受け継がれています。各神社の祭神や歴史を辿ることで、古代信濃の信仰や歴史を垣間見ることができます。この神社の謎を解き明かすためには、今後のさらなる調査と研究が期待されます。

参考文献

小林計一郎「健御名方富命彦神別神社（長野市長野）」
斎藤武雄「健御名方富命彦神別神社（飯山市五束）」
谷川健一 編『日本の神々 -神社と聖地- 9 美濃 飛騨 信濃』（白水社）

外部リンク

健御名方富命彦神別神社（飯山市）（長野県神社庁）
健御名方富命彦神別神社（國學院大學21世紀COEプログラム「神道・神社史料集成」）

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