備辺司

備辺司（ピビョンサ）について

備辺司（ピビョンサ）は、朝鮮王朝における軍事行政の重要な組織であり、16世紀から19世紀半ばまでの約300年間にわたり存続しました。この機関は1555年に起こった乙卯倭変を契機として常設化され、1865年には興宣大院君の政策によって正式に廃止されました。

創設の背景

李氏朝鮮の軍事行動は、議政府の一部である兵曹が統括していましたが、外部からの脅威が増大する中で、迅速な対応が求められる状況が続きました。特に16世紀には、北方の女真族や南方の倭寇による侵入が頻発し、国境の安定が脅かされていました。このため、臨時の機関が必要とされ、1517年に備辺司が設立される運びとなります。

最初の設置は「三浦の倭乱」などの外敵による事件後であり、以降も数度の危機に際して機能を強化しました。1555年以降は、常設機関として庁舎が設置され、官員が任命されるようになりました。

機能の拡張

1592年の壬辰倭乱を機に、備辺司はさらなる権限を獲得し、戦争遂行において中心的な役割を果たしました。議論や決定はこの機関が担い、徴兵や軍事物資の調達など、多岐にわたる権限を持つようになりました。

しかし、備辺司はあくまで臨時の機関であり、法的な地位は不安定であったため、他の政府機関との権限の衝突もありました。その際、為政者たちはこの機関を政治的な道具として利用し、様々な課題に対応するための政治機構へと変化させていきました。

17世紀には西人政権の下で権限がさらに強化され、対清関係が融和的に進展すると、外交や通商にまでその機能が拡大しました。このころ、備辺司が運営していた賑恤庁は、常平通宝という法貨の鋳造所の一つでもありました。

権力の集中とその影響

純祖、哲宗の時代には、備辺司に多くの権力が集中しました。特に哲宗の時代には、官員の数が増加し、国政全般に影響を及ぼす機能へと成長しました。しかし、こうした権力集中は親族間の派閥闘争や不正行為、売官の横行などを招き、朝鮮後期の政治の混乱を助長する要因となりました。

最終的に、興宣大院君の改革によって備辺司はその機能を外交や防衛、治安に限定され、1865年に廃止されました。

記録と歴史的意義

備辺司が残した会議録『備辺司謄録』は、朝鮮王朝中期から後期にかけての重要な情報源として位置づけられています。この文書は『朝鮮王朝実録』の編纂においても基本的な資料として利用され、1617年から1892年まで273冊が現存しています。1865年以降は『議政府謄録』としてカテゴライズされ、国の歴史的な文献として高く評価されています。

参考文献

• - 李成茂『朝鮮王朝史』（2006年 日本評論社）
• - 朴永圭『朝鮮王朝実録』（1997年 新潮社）

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