元安橋

元安橋：歴史と平和を繋ぐ広島の象徴

広島市中区を流れる元安川に架かる元安橋は、単なる橋梁を超えた、広島の歴史と平和を象徴する存在です。原爆ドームと広島平和記念公園を結ぶ主要な橋として、多くの観光客や市民が行き交います。その歴史は古く、安土桃山時代、毛利輝元による広島城下町の整備事業に伴い架橋されたと伝えられています。当初は木橋でしたが、1920年には鋼橋に改築され、その後、1992年に現在の橋に架け替えられました。

毛利氏時代から近代化まで

元安橋の起源は定かではありませんが、毛利輝元が広島城築城の際に架けられたとされ、当初は「元康橋」と呼ばれていた可能性があります。これは輝元の叔父、毛利元康の名に由来すると言われています。広島城下町の発展とともに、元安橋は西国街道筋の重要な橋となり、経済活動を支える役割を果たしました。江戸時代には度重なる洪水により落橋した可能性も示唆されています。

明治時代に入ると、国道2号線の経路に指定され、交通の要衝として機能しました。大正時代には、広島を代表する繁華街の近隣に位置し、華やかな雰囲気を醸し出していました。しかし、繁華街の中心が東部に移ると、周辺は庶民的な街へと変化していきました。大正時代に二度、架け替えが行われ、現在の橋につながる歴史が築かれました。1941年の太平洋戦争開戦時には、金属類回収令により鋼鉄製の欄干などは供出され、石製の欄干に替えられました。

原爆と元安橋

1945年8月6日、広島に投下された原子爆弾は、元安橋から約130mの地点で炸裂しました。爆心地に最も近い橋でありながら、奇跡的に落橋を免れました。しかし、橋周辺では多くの被爆者が亡くなり、その悲惨な状況は、爆心地特定の手がかりともなりました。橋の被害は、欄干や親柱の一部損壊にとどまりました。これは鋼鉄製の橋梁であったこと、衝撃波が真上からかかったことなどが要因として考えられています。

元安橋の被爆状況は、爆心地特定の重要な証拠となりました。爆心地に近い橋梁は、原爆投下、大型台風と立て続けに災害に見舞われましたが、元安橋は比較的軽微な被害で済んだのです。この事実は、当時の科学技術による調査と、橋の構造的特徴によって裏付けられています。

戦後から現在まで

戦後、補修を重ねながら長く使われ続けました。1947年には「原爆十景」に、1948年には「原爆記念保存物」に指定され、観光地としても注目を集めました。老朽化と太田川高潮対策事業に伴い、1989年から架け替え工事が始まり、1992年に現在の橋が開通しました。架け替えにあたっては、被爆した親柱や中柱を再利用し、大正時代のデザインを再現することが決定されました。

現在、旧橋の親柱や中柱は、爆心地に最も近い被爆遺構として、モニュメントとして保存され、放射線量に関する研究にも利用されています。元安橋周辺は、平和公園へのアクセス拠点として整備されており、ステージ状の護岸やオープンカフェなどが設けられています。観光客や市民にとって、歴史と平和を語り継ぐ重要な場所となっています。

もう一度検索