元町映画館

元町映画館（もとまちえいがかん）は、兵庫県神戸市中央区、活気あふれる元町4丁目商店街の一角に位置する映画館です。特にミニシアターとして知られ、地域に根差したコミュニティシネマとして、2010年の開館以来、多くの映画ファンに親しまれています。

設立への道のり

その設立には、ある小児科医の熱意と地域への深い想いが込められています。2000年、医師の堀忠氏は元町4丁目商店街で閉業したパチンコ店を買い取り、将来の映画館設立に向けた準備を始めました。当初はテナント収入で借入金の返済を目指しつつ、将来の映画館建設のための基盤を築こうとしたのですが、テナントの撤退を機に、かえって映画館設立への道が明確になり、プロジェクトは急速に動き出しました。

堀氏は一般社団法人元町映画館を設立し、自ら先頭に立って準備を進めました。専門業者に頼らず、関係者やボランティアの手を借りながら、文字通りゼロから空間を作り上げました。内装のペンキ塗り、カーペット敷き、カーテン縫製といった作業は、この映画館への愛情や、地域コミュニティと共に作り上げるという理念の象徴ともなりました。また、映写機、スピーカー、座席といった重要な機材や設備は、閉館した他の映画館から譲り受けることで、コストを抑えつつ、映画への愛と歴史を受け継ぐ形となりました。閉館した映画館から引き継がれた機材や座席は、それまで映画を映し、観客を受け入れてきた歴史を宿しており、新たな場所で再び映画文化を繋ぐ役割を担うことになったのです。

ロゴデザインも独自に制作されました。黄緑色は神戸の象徴である六甲山の緑、赤色は同じく神戸を代表するポートタワーの色を表しており、この映画館が地域と深く結びついていることを示しています。これらの手作りと継承の精神が、元町映画館の温かい雰囲気を作り出しています。

多様な作品とコミュニティ活動

2010年8月21日、元町映画館は待望の開館を迎えました。初日の上映作品は、記念すべき始まりを飾るにふさわしいラインナップとして、『狙った恋の落とし方』と『赤毛のアン グリーンゲーブルズへの道』が選ばれました。

開館以来、元町映画館は、その名の通り多様な映画を上映してきました。大手配給会社が手がける多くの人が知る話題作から、ミニシアターならではの個性的な作品、例えばアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『エル・トポ』や、社会派作品の『息もできない』、ロウ・イエ監督の『スプリング・フィーバー』といった国内外の秀作まで、幅広いジャンルと国の作品を紹介しています。これは、収益性だけでなく、文化的な価値や多様性を重視するコミュニティシネマならではの姿勢と言えます。

また、社会的な論争を呼びうるような作品、例えば環境問題を扱ったドキュメンタリー『ザ・コーヴ』や、歴史的な出来事を描いた『靖国 YASUKUNI』などを上映する際には、単に映画を見せて終わりではなく、作品が提起するテーマについて観客と共に考え、議論する場を提供することを重視しています。上映後に専門家を招いた講演会や、監督・関係者によるトークショーなどを開催することが多く、これは、映画の背景にある情報や様々な視点を提供することで、観客が作品内容についてより深く理解し、自分自身の考えを形成する手助けをしようとする、文化発信拠点としての役割を担う姿勢の表れと言えます。

映画館の魅力とアクセス

座席数は66席と小規模ながら、そのぶんアットホームで親密な雰囲気の中で、じっくりと映画鑑賞を楽しむことができます。元町4丁目商店街という地域密着型の立地も相まって、地元の人々はもちろん、多様な映画を求めて遠方から訪れる映画ファンにも愛されています。コミュニティシネマとして、映画上映だけでなく、様々なイベントやワークショップなども企画・実施しており、地域文化の振興にも貢献しています。

交通アクセスも良好です。JR東海道本線（神戸線）または阪神本線の元町駅から南西へ徒歩約6分、神戸高速鉄道の花隈駅から南東へ徒歩約6分、神戸市営地下鉄海岸線のみなと元町駅からは北へ徒歩約1分という利便性の高い場所に位置しており、訪れやすいのも魅力の一つです。

手作りで始まり、多様な作品とイベントで地域と観客をつなぐ元町映画館は、神戸におけるミニシアター文化、ひいては日本のインディーズ映画や多様な文化発信の重要な一翼を担う存在として、これからも多くの人々にとって大切な場所であり続けるでしょう。

なお、かつて元町2丁目に存在した「元映」という映画館とは、名称が似ていますが直接的な関係はありません。

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