靖国 YASUKUNI

『靖国 YASUKUNI』は、中国国営放送CCTV出身の李纓が監督を務めた2007年のドキュメンタリー映画です。靖国神社を題材とし、その多面的な側面を映し出しています。

概要

李纓監督は、1997年から10年間にわたり靖国神社を自ら取材し、映像を収録しました。映画は、1933年から終戦まで靖国神社で製造されていた軍刀の最後の刀鍛冶へのインタビューを軸に構成されています。また、終戦の日の靖国神社境内の様子がナレーション無しで映し出されます。

しかし、主演を務めた刀鍛冶の刈谷直治は、取材が日本の伝統工芸の美や保存に関する記録映画の製作であると信じており、映画の趣旨や自身が主演となることを事前に知らされていませんでした。そのため、李監督に騙されたとして、出演部分の映像の削除を求めています。

映画には、靖国神社に対する批判や、中国が反日プロパガンダで使用する「南京大虐殺」の写真などが含まれています。また、小泉純一郎首相（当時）の靖国神社参拝の様子、台湾人による抗議デモ、旧日本陸海軍の軍服を着て参拝する人々の姿なども描かれています。

靖国神社側は、撮影許可を与えていないとして配給会社に映像の削除を求めましたが、配給会社はこれに応じず、そのまま公開しました。

政治問題化

2007年 12月、マスコミ試写の後、週刊新潮が「反日」映画であると指摘し、文化庁所管の独立行政法人が助成金を出している点を問題視しました。これを受け、国会議員が助成金交付の条件である「政治的な訴え」や「政治的偏向」の有無を確認するため、試写を要望しました。

映画館には公開上映を問題視する電話が相次ぎ、上映中止を求める運動も起こりました。その結果、複数の映画館が上映中止を決定しました。さらに、主演の刀鍛冶やポスターに写っている自衛官から、映画制作過程に対する疑義や肖像権の問題が提起されました。

日本芸術文化振興会による助成金

本作は、文化庁所管の日本芸術文化振興会の芸術文化振興基金から750万円の助成金を得て製作されました。これに対し、国会議員の一部から「政治的な宣伝意図を有しないもの」という助成基準に合致しないのではないかとの疑問が呈されました。

参議院文部科学委員会で、客観性や政治的背景に関する質問が出され、助成金の適否が議論されました。産経新聞は、政治的中立性が疑われる映画に助成金が支出されたのではないかとして、再検証を求めました。

国会議員による試写会

稲田朋美をはじめとする国会議員が、助成金基準への合致を確認するため試写会を要請しました。配給会社は当初反発しましたが、最終的に全ての国会議員を対象とする条件で承諾し、試写会が開催されました。参加した議員からは、政治的中立性について疑問の声が上がりました。

稲田は、映画の内容について批判的な感想を述べています。

公開の延期とその後

2008年4月12日からの公開を予定していた映画館は、抗議活動などを受け上映中止を決定しました。文部科学大臣は、この事態を非常に残念であると述べました。その後、当初の予定より3週間遅れて、東京の独立系映画館で公開され、全国各地で順次公開されました。

高知県における上映

刀匠が在住する高知県では、当初公開予定はありませんでしたが、後に方針が転換され、住民による自主上映や県民文化ホールでの上映が行われました。

問題点

肖像権侵害

刀鍛冶の刈谷直治は、映画の主たる登場人物となることについて承諾しておらず、自身の映像の削除を求めています。また、パンフレットに掲載された制服姿の青年が現役自衛官であり、本人が掲載について何も知らされていなかったことや、NPO法人理事の黒岩徹が肖像権侵害で訴訟を起こし、和解が成立したことなどが問題となりました。

許可無しでの撮影

靖国神社側は、撮影許可の手続きが守られていないとして、映像の削除を要請しました。しかし、配給元は要請に応じず、そのまま公開しました。

評価

撮影に応じた人々の中には、靖国神社に対して台湾人の合祀を取りやめるように求める訴訟の当事者や、出演依頼の際に受けた説明と実際の扱い方が全く違うと主張する刀鍛冶がいました。

新右翼団体・一水会顧問の鈴木邦男は、本作を「愛日映画」と絶賛しました。一方、有村治子は、企画段階で靖国支持者の主張が対象とされておらず、ドキュメンタリー映画としても程度が低いと批判しています。また、『靖国』の著者・坪内祐三は、誤解を与える表現による情報操作があると指摘しています。

長谷部恭男東京大学教授は、ドキュメンタリー映画としては掘り下げの足りない凡作と評しています。宇多丸は、映画内における日本語のディスコミュニケーションが浮き彫りになっていると指摘しています。

脚注

参考文献

外部リンク

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