兄弟福祉院事件

兄弟福祉院事件：韓国における大規模な人権侵害

兄弟福祉院事件は、1975年から1987年にかけて、大韓民国釜山直轄市（現：釜山広域市）に存在した兄弟福祉院で発生した、大規模な人権侵害事件です。この施設は、釜山直轄市との委託契約に基づき、浮浪者、障害者、孤児など約3,000人を強制的に収容し、過酷な労働を強いたり、虐待を繰り返していました。その結果、施設側の公式発表だけでも513人もの死亡者が出ましたが、実際には、暴行や飢えによる死者が「病死」として偽装された可能性も指摘されており、実際の死者数はさらに多いと推測されています。

事件の背景

この事件の背景には、当時の韓国政府による政策が深く関わっています。1975年12月に朴正煕大統領のもとで制定された内務部訓令410号は、浮浪者対策を名目とした強制収容を可能にするものでした。さらに、全斗煥政権下では、1986年のアジア競技大会や1988年のソウルオリンピックを控え、国のイメージを向上させるために、浮浪者などを社会から隠蔽する「浄化作戦」が展開され、兄弟福祉院はこれらの政策の実行機関として機能しました。

事件の発覚とその後

この事件が明るみに出たのは、1987年2月3日の東亜日報による報道がきっかけでした。その後、2012年には生存者による手記が出版され、事件は再び注目を集めるようになりました。2014年には、野党第一党であった新政治民主連合の議員によって、事件の真相究明と被害者救済を目的とした特別法案が国会に提出されました。しかし、事件の責任追及は不十分なままでした。

兄弟福祉院の院長は、業務上横領容疑で起訴され、懲役2年6か月の実刑判決を受けましたが、1989年には釈放されました。大法院は、この裁判で2度にわたり院長が不法監禁を行っていないことを認定しており、この点についても批判があります。兄弟福祉院はその後名前を変え、現在は院長の息子が代表理事を務める兄弟福祉支援財団として存続しています。

政府調査と結論

2022年8月24日、政府の真実・和解のための過去史整理委員会は、兄弟福祉院事件に関する調査結果を発表し、この事件を「公権力による人権侵害事件」と断定しました。委員会の調査によると、兄弟福祉院が釜山市と「浮浪人収容保護委託契約」を締結した1975年から1986年の間に約3万8000人が入所し、そのうち657人が死亡したことが明らかになりました。これは、以前の施設側の発表よりも大幅に多い数字であり、事件の深刻さを改めて示しています。

事件の教訓と今後の課題

兄弟福祉院事件は、「韓国版アウシュビッツ」とも呼ばれる、近代社会における深刻な人権侵害事件です。この事件は、国家権力が人権を侵害する危険性や、社会的に弱い立場に置かれた人々がどのように差別や虐待の対象となりやすいかを示しています。事件の真相解明、被害者の救済、再発防止のための取り組みが急務となっています。

関連項目

三清教育隊：全斗煥政権下で、社会浄化を目的として行われた暴力的な矯正施設。
新安塩田奴隷労働事件：韓国の塩田で発生した、障害者や貧困層に対する奴隷労働事件。
水戸事件：日本の福祉施設で発生した虐待事件。
障害者差別：障害を理由とした差別。
* 強制労働：本人の意思に反して強制される労働。

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