先天性風疹症候群

先天性風疹症候群（せんてんせいふうしんしょうこうぐん、Congenital Rubella Syndrome; CRS）とは、妊娠中の女性が風疹ウイルスに感染した際、そのウイルスが胎盤を経由して胎児に感染することで発症する一連の病態を指します。風疹ウイルスには、胎児の細胞の正常な分裂や増殖を妨げたり、細胞そのものを損傷させたりする性質があるとされており、これが様々な先天性障害の原因と考えられています。

感染リスクと発症時期

胎児への感染リスクは、母親が風疹に感染した妊娠週数によって大きく変動します。特に、妊娠初期、すなわち妊娠3ヶ月頃までの期間に母親が感染した場合に最もリスクが高まります。統計的には、妊娠1ヶ月での感染では胎児の50%以上に影響が出るとされ、妊娠2ヶ月では約35%、妊娠3ヶ月では約18%と、週数が進むにつれてその確率は減少します。妊娠4ヶ月以降の感染でも発症例はありますが、その確率は約8%程度に低下します。ただし、聴覚障害については、妊娠6ヶ月頃までの感染でも生じる可能性が指摘されています。

多様な症状

先天性風疹症候群の症状は非常に多岐にわたります。代表的なものとしては、心臓の奇形（心疾患）、感音性難聴、白内障などの眼の障害（白内障、網膜症、小眼球症など）が挙げられ、これらは「三大症状」と呼ばれています。これらの他にも、肝臓や脾臓の腫大（肝脾腫）、血小板数の減少による出血傾向、糖尿病などの内分泌・代謝系の異常、さらには出生後の発育や精神発達の遅れなども見られることがあります。これらの症状は単独で現れることもあれば、複数組み合わさって現れることもあり、その組み合わせや重症度は感染した時期や胎児の感受性によって異なります。

予防が最も重要

先天性風疹症候群に対する根本的な治療法は確立されておらず、発生した個々の症状に対する対症療法が中心となります。そのため、この症候群を予防することが最も重要となります。予防の中心となるのは風疹ワクチンの接種です。特に妊娠を希望する女性や、妊婦の周囲にいる家族などがワクチンを接種し、社会全体で風疹に対する免疫を高めること（集団免疫）が、妊婦を風疹ウイルスの暴露から守る上で効果的です。

妊娠中のワクチン接種について

風疹ワクチンは生ワクチンに分類されます。生ワクチンは、弱毒化されたウイルスを用いるため、理論的には胎児に影響を与える可能性が否定できません。このため、妊娠中の女性が麻疹・風疹混合ワクチン（MRワクチン）や新三種混合ワクチン（麻疹、おたふくかぜ、風疹を混合したワクチン）などの風疹含有ワクチンを接種することは、先天性風疹症候群を引き起こす可能性があるため、禁忌とされています。妊娠可能な年齢の女性が風疹ワクチンを接種した場合は、接種後約2ヶ月間は妊娠を避けることが推奨されています。

まとめ

先天性風疹症候群は、妊娠初期の風疹感染が原因で胎児に重篤な障害をもたらす疾患です。心疾患、難聴、白内障を三大症状とし、その他にも様々な症状を引き起こします。予防のためには、妊娠を希望する女性やその周囲の人のワクチン接種が不可欠ですが、妊娠中の生ワクチン接種は避ける必要があります。社会全体で風疹の流行を防ぐことが、未来の世代を先天性風疹症候群から守る鍵となります。

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