先志学校

先志学校（せんしがっこう）

先志学校は、明治時代初期にあたる1881年（明治14年）に、アメリカ・オランダ改革派教会によって日本に創設された教育機関です。その主な目的は、将来神学校で学ぶことを志す若者たちに対し、専門的な神学教育に進む前に必要な基礎的な一般教育を提供することでした。

この学校の設立の背景には、伝道者育成に対する強い問題意識がありました。ジェームス・ランジング・アメルマンは、効果的な伝道活動を行うためには、優れた神学知識だけでなく、確固たる一般教養を身につけた伝道者が必要不可欠であると考え、この構想をアメリカ・オランダ改革教会の伝道局に熱心に提言しました。彼の訴えが受け入れられ、伝道局の承認を得て、先志学校の開校へと繋がったのです。こうして、1881年11月、28名の生徒を迎えて学校は産声を上げました。初代校長には、マーティン・ワイコフが就任し、彼の指導のもとで学校運営が始まりました。

先志学校の教育は、単なる学問知識の伝達に留まりませんでした。マーティン・ワイコフ校長を中心とした指導体制は、アットホームで温かみのある雰囲気を醸成し、生徒一人ひとりに寄り添う家庭的な教育が行われました。カリキュラムには、漢学を熊野亨堂が担当し、英語訳読や寄宿舎の管理は星野光多が担いました。また、ワイコフ校長自身も教鞭を執り、英会話、英作文、音読といった英語教育に加え、学校の事務全般も管掌していました。

特筆すべき教育活動として、毎週水曜日の夕刻には定期的な祈祷会が開催され、生徒たちは共に祈りを捧げる時間を持ちました。さらに、礼拝への出席が生徒の義務とされており、学業と並行して信仰を深める教育が重視されていました。当時の社会状況を反映してか、入学した生徒の多くは日中に他の仕事を持っていました。そのため、先志学校では、こうした生徒たちが学び続けられるよう、夜間に授業を開講するという形式をとっていました。

しかし、先志学校の歴史は比較的短いものでした。創立からわずか3年後の1883年、学校は大きな転機を迎えます。同時期に存在した別のミッションスクール、アメリカ合衆国長老教会の宣教師であるJ・C・バラが校長を務めていた築地大学校と合同することになったのです。この合同により、両校は新たな教育機関として再出発し、「東京一致英和学校」と名称を改めました。先志学校は単体としては閉校となりましたが、その教育理念や生徒たちは新しい学校に引き継がれ、現在の学校法人の源流の一つとなりました。

わずか3年という短い教育活動期間であったにも関わらず、先志学校は多くの有為な人材を社会に送り出しました。その卒業生の中には、後に札幌農学校の教授として活躍した和田健三や、陸軍大学校で教授を務めた野矢丈夫など、各界で重要な役割を担った著名な人物が名を連ねています。短期間での閉校は惜しまれますが、先志学校が日本の近代教育、特にキリスト教に基づく教育分野において果たした役割と、輩出した人材が後世に残した功績は大きいと言えるでしょう。

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