光トポグラフィー

光トポグラフィーとは

光トポグラフィーは、近赤外光を利用して大脳皮質の機能を計測する技術です。この技術は、脳の表面に沿って機能マッピングを行うことを目的としており、脳の活動状態を可視化するのに役立ちます。特に、精神疾患の診断補助において、その有用性が注目されています。

光トポグラフィーの原理

光トポグラフィーは、近赤外光を頭皮上から照射し、脳組織での光の吸収や散乱の変化を測定することで、脳の活動を間接的に計測します。この原理は「光機能画像法」と呼ばれ、非侵襲的に脳機能を調べることが可能です。

日立メディコが開発した「光トポグラフィ装置」は、世界初の多チャンネル光脳機能マッピング装置として知られています。この装置は、1990年代後半から販売が開始され、現在では医療現場や研究機関で広く利用されています。

名称について

「光トポグラフィ」という名称は、日立製作所の登録商標です。しかし、この技術が広く利用されるようになったため、一般的に「光トポグラフィー」と表記されることもあります。日立製作所は、2005年にこの名称の利用を一般公開しました。現在では、厚生労働省の用語集にも収載されており、広く認知された名称となっています。

光トポグラフィー装置

現在、日本国内で販売されている主な多チャンネル近赤外光脳機能計測装置には、日立製作所の「光トポグラフィ装置」と島津製作所の「NIRStation」があります。これらの装置は、近赤外光の受発光方式、プローブの形状、装着方法などが異なります。研究者は、これらの違いを考慮して、自身の研究目的に適した装置を選択します。

光トポグラフィーの長所と短所

長所

安全性が高い：微弱な光を使用するため、人体への影響が少ない。
被験者の制約が少ない：姿勢や動きの制限が少なく、自然な状態で計測できる。
特別な設備が不要：シールドなどの特殊な設備が不要で、簡便に計測できる。
高い時間分解能：脳の活動変化を高いサンプリング時間で捉えることができる。

短所

* 血管からの影響：技術的な工夫がないと、毛細血管だけでなく、酸素交換をしない太い血管からの信号も混在して計測される可能性がある。

光トポグラフィーの適用

光トポグラフィーは、脳神経外科領域において、言語機能の診断やてんかん焦点の特定などの検査に利用されています。2002年にはこれらの検査に対して保険点数が認められました。また、近年では、うつ病などの精神疾患の鑑別診断補助にも応用されています。

2009年には、うつ症状の鑑別診断補助として厚生労働省に先進医療として承認され、2014年には診療報酬として適用されました。ただし、適用には、うつ病と診断されているが治療抵抗性があり、統合失調症や双極性障害が疑われる場合で、かつ神経内科医や脳神経外科医によって器質的な病気がないことを確認する必要があります。

医療診断補助としての光トポグラフィー

光トポグラフィー検査は、主に抑うつ症状の鑑別診断に用いられます。この検査では、患者に光トポグラフィー装置を装着し、言葉を発するなどの簡単な課題を実施してもらいます。健常者は、言葉を発する際に脳の血流量が速やかに上昇しますが、うつ病患者では血流量の変化がほとんど見られません。統合失調症患者では血液量の不規則な上昇下降が見られ、双極性障害患者ではゆっくりとした上昇が見られます。これらの血流量の変化を測定することで、鑑別診断の補助を行うことができます。

光トポグラフィーへの議論

光トポグラフィーの有用性については、様々な議論があります。厚生労働省の専門家会議は、この検査を「やや有効」と評価していますが、脳深部の測定ができない点や対象患者が薬剤を服用している点など、いくつかの問題点も指摘しています。

また、国際的な医学雑誌『ネイチャー』は、この技術が誤診を招く可能性を指摘し、確実なエビデンスなしに診断ツールとして提供されるべきではないと警鐘を鳴らしています。NIRS指標には、最適な測定方法に関する国際的な合意がないことや、多重盲検法などの厳密な検証が不足していることも問題点として挙げられています。

2016年には、日本うつ病学会が、十分な臨床評価がないままに光トポグラフィーのみに基づいて診断される例があるとして、適切な診断の実施を求める声明を出しました。

ADHDの診断研究

光トポグラフィーは、注意欠陥・多動性障害（ADHD）の診断にも応用される研究が進められています。研究では、薬物治療の効果を光トポグラフィーで検査できる可能性が示唆されています。

まとめ

光トポグラフィーは、近赤外光を用いた非侵襲的な脳機能計測技術であり、医療分野や研究分野で幅広く活用されています。うつ病などの精神疾患の鑑別診断補助としての可能性が期待される一方で、その診断精度や臨床応用には慎重な検討が必要です。今後、さらなる研究と技術開発により、光トポグラフィーがより正確で信頼性の高い脳機能計測技術として発展していくことが期待されます。

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