光世紀世界

光世紀世界とは

「光世紀世界」とは、太陽系を中心とする半径50光年（直径100光年）の宇宙空間を指す概念です。これは、SF作家である石原藤夫氏が、ハードSF作品の舞台設定をより現実的にするため、提唱しました。

提唱の背景

従来のSF作品では、地球から見て明るい星が物語の舞台となることが多くありました。しかし、宇宙には明るさだけでなく、地球からの距離も重要な要素です。石原氏は、太陽のようなありふれた矮星が、その暗さゆえに注目されないという点に着目し、地球近傍の恒星に着目した独自の恒星カタログを編纂しました。

従来のSF作品でよく見られるワープ航法のような超光速航法ではなく、より現実的な宇宙観に基づいたハードSF作品を創造するために、彼は地球からの距離を重視した恒星カタログを作ったのです。これは、石原氏がハードSF作家であると同時にビブリオグラファー（書誌学者）としての側面も持ち合わせていたからこそ実現した試みでした。

光世紀世界の誕生

1978年から1979年にかけて、石原氏は『S-Fマガジン』に太陽を中心とする半径30光年以内の恒星データを収録した星表と解説を連載しました。1984年には、その範囲を半径50光年にまで拡大した資料集『光世紀の世界』を私家版として刊行しています。

さらに、1980年から1981年には、小説『光世紀パトロール』を発表し、光世紀世界を舞台とした物語を世に送り出しました。

『光世紀の世界』は、1985年の日本SF大会で星雲賞ノンフィクション部門を受賞しました。私家版のため入手困難ですが、一部を収録した商業出版物も存在します。

光世紀世界の概要

光世紀世界は、天の川銀河のオリオン腕に位置し、銀河中心から約3万光年離れています。この領域には、惑星状星雲や球状星団は存在しません。

1980年代初頭の時点で、738個の恒星が確認されており、LCC番号（光世紀星表参照）が付けられています。さらに、未発見の暗い星が700個から2000個以上存在すると推定されていました。

恒星の約3分の1は連星系であり、そのほとんどは主系列星と赤色矮星です。白色矮星や巨星は少数存在しますが、赤色超巨星や中性子星、ブラックホールなどは発見されていません。いくつかの恒星には惑星が存在することが判明していますが、知的生命体が存在し文明を築いている惑星系は、現在のところ一つしか確認されていません。

光世紀世界の構造

光世紀世界は、16の宙域と60の星域に分けられています。

第1宙域: 太陽を中心とする半径15光年の球体。
第2宙域 - 第4宙域: 太陽からの距離が15光年から30光年の球殻。
第2宙域: 銀緯+20度から-20度。
第3宙域: 銀緯+20度以北。
第4宙域: 銀緯-20度以南。
第5宙域 - 第16宙域: 太陽からの距離が30光年から50光年の球殻。

各星域は、比較的近くにある恒星をまとめて設定され、星域内の恒星は線で繋がれています。これらの線は、必ずしも物理的な繋がりを示すものではありません。

光世紀星表

光世紀星表は、詳細な恒星データが記載された資料で、以下の内容が含まれています。

総合星表: 太陽から約50.2光年以内の恒星を、太陽に近い順に掲載。
最輝星の表: 太陽よりも絶対実視等級が大きい星を掲載。
微光星の表: 絶対実視等級14.5等以下の星を掲載。
相対空間速度の大なる星の表: 1万年あたり3光年以上動く星を掲載。
太陽系にもっとも近づく年代とその時の座標: 相対空間速度が判明している星のうち、過去または未来のある時点で15光年以内に接近するものを掲載。
力学的運動から惑星を持つと推定されている星: 当時そう推定されていた星を掲載。
太陽に似た星の表: 太陽を含む星を掲載。
3重連星以上の多重連星の表: 29組を掲載。
固有運動を共有する星系の表: 固有運動から連星と推定される星を掲載。
白色矮星の表: 30個を掲載。
閃光星の表: 26個を掲載。
アルファベット順の星名一覧表: 星のニックネームや星座名、カタログ番号をアルファベット順に掲載。
50音順の星名一覧表: 星のニックネームや星座名、カタログ番号を50音順に掲載。
宙域および星域順の表: 各星域に属する恒星を掲載。

これらのデータには、恒星の位置、距離、スペクトル型、等級、質量、直径、相対空間速度などの情報が含まれています。

光世紀星図

光世紀星図は、以下の9種類の66枚の図から構成されています。

全域俯瞰図: 3軸方向から見た光世紀世界の図。
30光年以内の部分俯瞰図: 半径30光年以内の領域を俯瞰した図。
30 - 50光年の部分俯瞰図: 半径30光年から50光年までの各宙域の図。
星域別立体図: 各星域を立体的に描いた図。
各種立体視図: 立体的に見えるように描かれた図。
15光年以内の過去と未来: 過去と未来における恒星の位置を示す図。
実際の星数推定図: 未発見の星の存在を推定した図。
SFの舞台としての《光世紀世界》: SF作品に登場する星を示した図。
太陽系より眺めた天球展開図: 天球を様々な角度から見た図。

光世紀星図は、通常の星図とは異なり、光世紀世界の外側から俯瞰した視点で描かれているものが多いのが特徴です。

光世紀パトロールシリーズ

1980年から1981年にかけて、石原氏は『SFアドベンチャー』に連載小説『光世紀パトロール』を発表しました。この作品は、光世紀世界を舞台にした連作短編で、後の単行本化の際に全5話が収録されました。

物語の舞台は2120年代で、太陽系文明が光世紀世界の辺境に進出している時代です。主人公たちは、パトロール艦《オレーム二世号》に乗り込み、犯罪者や異星人の宇宙船と戦います。

物語中には「光速伸長航法」という特殊な航法が登場し、光速の1000倍以上の速度で宇宙を航行することが可能です。また、再生クローンという技術も登場し、過去の人物の遺伝子パターンから復元されたクローンが物語に登場します。

関連書籍

光世紀の世界: 石原藤夫氏による私家版資料集。
《光世紀世界》への招待: 裳華房から出版された、光世紀世界の概要を紹介する書籍。
《光世紀世界》の歩き方: 裳華房から出版された、光世紀星図を中心に解説した書籍。
* 光世紀パトロール ランダウの幻視星: 徳間書店から出版された小説。

まとめ

光世紀世界は、ハードSFの舞台として、非常に詳細かつ現実的な宇宙観を提供しています。石原藤夫氏の熱意と緻密なデータによって、SFファンだけでなく、天文学に興味のある人にとっても魅力的な概念となっています。

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